アニマルクリニックのホワイトデープラス一日
「宇美さーん。元気ですかー」
サッと向けられるどちらかというと冷たい眼差し。
「先輩。遊びに来ました。あとで奢ってください」
「じゃあ、人の嫁にちょっかい出してないで手伝っていけ」
ぼくはその提案にのって手伝いを。
ついでに隼子さんの情報を宇美さんから拾う。
「こんにちは先生」
来院者の声に宇美さんが受付へと向かう。
「あら、こんにちは天音ちゃん。その子は?」
馴染みの子らしい相手に対応する宇美さんの声を聞きながら町内情報誌をめくる。
奢ってもらうならどこがいいかなぁ。
「新しい子です。予防接種は終わってるらしいんですけど、うちの子達はここで診てもらってるから」
「じゃあ、カルテ作りましょうね。名前は?」
「紫電号です」
厳つい名前だなぁ。
「済んでいる予防接種のリストがこれです。よろしくお願いします」
「あら」
どんな子かな?
「猪口先生」
呼ばれて覗くと知らないどこかボーイッシュな少女。ただ、抱き抱えられている仔犬は覚えがあった。
「ありゃ、うちの病院で予防接種した仔じゃないか」
世間は狭いですねと宇美さんが笑う。本当だ。
「この仔、おっきくなるよ?」
お世話大丈夫と問えば、少女は頷く。大型犬は散歩しきれないと大変だ。
先輩も宇美さんもその辺りの心配はしていないようだった。
見送ってからぼくは先輩にぼやく。
「ロリコンは撲滅すべきっすよね?」
「ロリコンは、幼い少女対象で年齢差だけで言うんなら不適切だからな?」
妙に含みのある回答に首を傾げて、ああっと納得した。宇美さんと先生には親子に近い年齢差があるんだった。
「先輩をロリコンと断じてるわけじゃないですよ?」
ぐりぐりと拳が痛い。
宇美さん笑ってないで助けて。
手を伸ばしても救いはない。と言うか、余計なことを言うなという凍てついた眼差しを贈られる。宇美さんがフリーならご褒美なのに!
「紫電号をうちに連れてきたのは大学生でしたからホワイトデーに女の子に渡すって」
確かにマシュマロのよーにふわふわな仔犬だけどさ。扱いは間違ってると思った。大型犬は必要運動量や体調が崩れた時、病院に連れてくることが大変だから。
「つまり、あの子にお姉さんがいないなら、そういうことでしょう?」
高校生だとしても小柄な一年生。たぶん、中学生じゃないかと思うんだけどな。
「ホワイトデー。世の中にはそういうものもありますね」
宇美さんが生温い眼差しで先輩を見ている。
そっと視線を外すその姿に先輩がお返しをしてないことがわかった。
「先輩。猫にかまけてましたね?」
上の階から覗き込む猫は若そうなスフィンクスとアメショの仔猫。
先輩は苦笑で誤魔化す。
釣りあげた魚にも餌はまかなきゃいけないんですよと考えて、魚が先輩の方だったと思い出す。
ちょっと場をはなれた後。戻ってくると妙に満足そうな宇美さんがいた。
「何ニヤついてる」
不満そうな先輩にとりあえず、ご馳走さまと告げた。
「なにをたかる気だ?」
店を決めたのかと笑われてなんか違うと思わされた。その後に続いた宇美さんの対応。
「隼子、誘ってみるわ」
「一生ついていきます。あねご!」
「いや、いらない」
宇美さん、人妻でもクール。




