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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014年〜2015年冬
681/823

2015/03/03

「38.6℃。寝てろ。何時の便?」

「少なくとも今日じゃねーよ。菊花ちゃん達に約束パスだけ連絡しないとな」

「お粥と薬な。持ってくるから」

「んー」

 隔離室で寝てきまーす。

 スマホを持って体を起こす。あー。ぐらぐらする。喉いてぇ。

 麻衣子ちゃんも愛子ちゃんもさほどは気にしないと思う。

 菊花ちゃんはうるさそうだからなと思う。

 用事ができたから無理になったとだけ送信。

 用事、隔離室で寝てるという用事ができた。

 ホントーに誰かが来ることはない。それが普通。

 年末年始のインフルの時がおかしかった。

 ゆっくりと睡魔に身を任せる。


 水が欲しい。


 ぬくもりが感じたい。


 誰も来ない。

 弱ったところなんか誰かに見せるものでもない。

 弱いコトを考える自分が嫌だ。

 調子が悪いから考えることがマイナス志向。

 一人で大丈夫。

 薬を飲んで寝てれば治る。




 触れられた感触にぞわりと目を開けた。

「し、ず?」

「メシと薬な。フルーツジュースも」

 しぶしぶと用意された食事を口に運ぶ。

 食べているところをじっと見られてる。

「スッゲー食い難いんだけど」

「そう? なぁ、千秋」

「ん?」

「ザインとなんかあった? ランバートの元彼だろ? 寝言で呼んでたけど」


「バート兄の?」


 頷く鎮。

 いや。どーでもいいんだ。どーでも。

「夏に結婚式に呼ばれたんだよ。かわいいお嫁さんでさ。ソレなのにアイツ披露宴の後自宅で乱交パーティー企画しててさ。イヤな思いしただけ」

 そう不愉快だっただけだ。

 そこで聞いた情報だけを鵜呑みにするのが間違ってるのもわかってる。

 それでも、一番情報をくれるんだ。

 どーでもいい。興味がないと言いつつ、失われる命が足掻く姿が嫌いで、さっさと病魔なんか撲滅すればいいと定期的に資金を組んでる。

 自分が、魔女が、どう周りに思われている存在なのかを教えてくれた。実地で。

「死ねばいいと思うけど、そうもいかねーバカだよな」


 俺には何もない。だから知らなきゃ動けない。

 辛うじて垣間見える欠片をかき集めていくしかない。

 それぞれの幸せのカタチ。欠片。

「好き、なの?」

 鎮の不思議そうな声に意識が真っ白になる。なに言ってんの? こいつ?

「だって、懐いてたろ?」

 バート兄と同い年、資産家の跡継ぎ。遊び上手で明るくて。つまみ食いや乗馬、屋根裏探検。悪いことも悪戯も。どこか憎めない憧れの兄のような存在だった。

 日本に来てからも時々手紙をくれて、端末を持つようになってからは月に一度はメールのやり取り。

 しずをいじめるのがいてイヤだと愚痴れば、しばらくしてそいつを見かけなくなった。

 そう。一番、繋がりを保ってくれていた相手だった。『シー』の様子を知りたいんじゃなくて、俺を気にかけてくれていた。いや、あいつらもダチだけどさ。

「好きだよ。澄にいや直樹さんと同じように」

 鎮の言葉に自分がまだ迷っていることに気がつかされる。

 アイツは、何かに怒っていて俺にはその理由がわからない。

 アイツの行動が全部は受け入れられなくても、俺はどこかでアイツを信じてる。ただそれを自覚したり、認めたりはしたくない。

「他人って理解できねー。でも一番はやっぱしずだぁー」

 ああもうイロイロわかんねぇ。

「寝るから、一人にしろよ」

 眠れば、起きた時きっと忘れてられる。俺はアイツを信じたりしない。認めない。

「まだダメ」

 はぁ?

「まだ食べ終わってないだろ? 薬も飲まないと」

 んと、あれ? 食べてたと思ったんだけど、な?

「昨夜の食事から結局これが一回目なんだから全部食え」

 時計が示す時間は七時。

 デザートと差し出されたのはカラフルなゼリー。

「あ」

「甘すぎんの、キツイか?」

 鎮の少し心配そうな声。

 違うと首を横にふる。あ、くらくらする。

「芹香の、ひな祭り」

 雛人形とかは出してあるけど……。

「心配せず、さっさと治せ」

「今日も、空ねぇ、迎えに行くんだろ?」

 沈黙。

「しずめ?」

 無言でスマホを差し出される。


 19:57


「ただいま」

 19:58……

 なにこの時間ドロボーと遭遇した心境はっ!

「……おかえり」




「千秋兄! さぁ見ろ」

 は?

 いきなりドアが開いて芹香の声。何を見ろと?





 ◆◇◆






 三月三日はひな祭り。


 おひな様も飾ってもらったわ!

 着物を着せてもらって写真撮ってもらって、ふっと気がついたんだけど、千秋兄は?

 鎮兄は火曜日だから空ねぇのお迎えに出かけたし。

 晩ごはんはちらし寿司とハマグリのお吸い物。

「ちぃ兄?」

「んー?」

 携帯ゲーム機を操ってアクションゲームらしい。

「千秋兄は?」

 知らない?

「ん? ああ。風邪だって。隔離室で安静中」

 昨日は普通だったのに。

「お水かえに行ったけど、寝てたよ」

 碧ちゃんが補足する。

 せっかく、着物着たのに。

 今年の年末年始はインフルエンザに罹ってたせいで見てもらってないから、ひな祭りにって思ってたのに平日のちょこっと時間のために頑張って着付けてもらったのに。

 むぅ。

 隔離室は感染しないように立ち入り禁止。

 私は使ったことないけどね。

 ひな祭りには桃の花っていうけれど時期的には梅が咲いていて、桃には少し早いんじゃないかと思う。

 梅が咲いて、それから桃、で桜。

 花の時期は不思議。

 この三つの花は同じバラ科の植物だって鎮兄が教えてくれた。

 言われて考えれば、お花の形が似てるなぁとも思える。

「見せてあげようと思ったのに」

 おひな様が並んでる。綺麗な着物を着たお人形。

 私用のと、ミアちゃん用のとノアちゃん用のと、ミラちゃん用の四組と、千鶴ちゃん用のおひな様(これは色紙に折り紙の雛人形が貼られている)。

 写真を撮って画像送信。宛先は涼維と伯父さん。

 これでミアちゃんノアちゃんにも届くんだわ。

 あとで雛あられを持ってこっそり千秋兄のところにお見舞いだ。

 だって、今年は着物姿まだ見てもらってないんだもん。




 ぼやんとした感じの千秋兄が数回瞬きをしてゆっくり笑う。

 横で鎮兄は薬を準備しつつ、苦笑している。

「ん。芹香、似合ってる。かわいいよ」

 ふふん。

 とーぜんだわ!

「でもな。仁王立ちだと着物が乱れるから動きをもう少しだなぁ」

「ばかー! かわいいで終わってればいいのよー!」


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

より空ちゃん


『うろな担当見習いの覚え書き』

http://book1.adouzi.eu.org/n0755bz/

『うろな2代目業務日誌』

http://book1.adouzi.eu.org/n0460cb/ 

『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

高原直樹さん、直澄さん。

話題でお名前のみお借りしました。

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