対話 鎮vs千秋①
「しーず」
背後から不意に首に手を回されて驚いた。
「千秋……」
「お互いにさ、距離感決めるべきだと思うんだ」
「ぁ」
にこにこと機嫌よく千秋は続ける。最近静かに距離をとっていてした会話は当たり障りのないこと。食事、受験、イベントごと。
「受験も卒業式も終わったしね。俺も時間あったしさー。そーゆー意味ではしずは考える時間、なかったっていうんならもう少しなぁなぁでもいいと思うけどさ」
滅多にない距離感に困惑する。そう、これは隆維涼維の距離感に近い。息づかいと脈を、体温を感じれる距離。
「ああ、もう。髪ぐらいもう少しマトモに梳けよな。空ねぇと歩くのにもこのまんまかよ。身だしなみぐらい整えろっつーの」
回されてた片手がざくりと髪に突っ込まれる。無理に視線を合わせたらにぃっと笑われた。
「たまには面白い距離だろ?」
明るく整えられた赤毛。俺より少しだけ明るい緑の眼差し。
「ここでスル? ……それとも音響室使う? 俺、途中で怒鳴り散らす自信があるんだけどさ。どうする?」
少し、低く耳元で囁かれる。たぶん、わざとな言葉選び。
「屋上じゃなくていいのか?」
いつもそー言う会話は屋上が多かった。
「怒鳴る自信、あるっつってんだろ」
普段どおりに提案を囁いて返るのは少しイラついた声。
肩に重みを感じる。近い。千秋とこんなに近いっていつぶりだろう?
「僕はさ、鎮とか、家族のことで不満を感じたら、抑えきれる自信はねーの。なにせ、むかつくからね」
軽いキス。
隆維と涼維ほどではないけれど、しないわけじゃなかった。昔は、だけど。
ただ、日本に来て千秋と距離ができて気がついたらしなくなってた。
ハグもキスも、手を繋ぐことも。千秋は広がった世界に夢中だった。少なくとも俺はそう見ていた。
わかりやすい愛情表現。それは異質で、異質を好まなかったのは『普通に馴染む』事をしたかった俺。それでもして欲しくて手を伸ばしたら拒絶される。むこうにいた時から拒絶感はあって、どうしたらいいのかわからなかった。
「僕からしなかったけどさ。鎮からも来ないんだよね」
じっと視線が合わせられる。
否定したいのに否定できない。あれ以上嫌われたくなかった。
それが、判断ミス?
「でもさ。もういいや」
「ちあ、っ」
その言葉はなげやりに聞こえて、ダメな気がして、止めようと言葉を選ばなきゃと名を呼ぶ口を深めのキスで塞がれる。
眼に映るのは楽しそうに笑う千秋。
「千秋!」
「うん。もういいんだ。聞かない。鎮は鎮の形で僕を守りたいんだ。それが誰かに言いつけられた結果でもさ。僕を見てくれてるんだもんな。監視?」
小さく笑いながらゆるく回された手が位置を変える。
「監視、なんて!」
そんなつもりはない。
「うん。僕は何も知らないからね。監視される必要もない。いいよ。しててもしてなくても」
「ちあ、き?」
「うん。鎮、場所、移ろう。どっちが声荒げるかわっかんねーや」
するりと身を離す千秋。温もりが遠のく。
「話す気ない? 考えまとめれないんならさ。僕は一ヶ月ほどむこうで集中講座受けに行くつもりだからその間に考えといてよってなるかなぁ」
「聞いてない!」
慌てて立ち上がり千秋を追う。
「今、言ったろ? 本格的に学業に専念するならフルで行っとくべきなんだけどさ。伯父さん帰ってきてねーし、さーやちゃんはさーやちゃんでしたいことあるだろうし、隆維の体調や芹香も心配だしね」
あそこ通信制が整えられてるからできるけど、実際ナマで聞きたいトコはあるしと続く。
千秋との距離感。向き合い方。
確かに学業重視に考えたらその方がいいとは思うけど。
って言うか、事前にそういうことは報告しとけよ。
本気で監視するぞ!?
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より空ちゃんお名前お借りしました。




