クリスマス 2014年
「デートだって?」
「モールでツリー見て、食事を買い込んで、僕の部屋でゲームのクリスマスイベントに参加です」
「それでいーの?」
意外そうに鎮先輩が首を傾げます。
「リクエストがこのプランで。夜は柊子さんのところまで送る予定ですけど」
ま、英にも不評なプランだったけど。
「ふーん。どんな子?」
「彼女は山辺蘇芳さんと言いまして、大叔父が引き取った友人のお嬢さんなんです。ネットゲームや電子機器ラブですけど、引きこもっているってほどではないですね。あんまりおしゃれとかは興味なくて学校用に最低限対応している感じですね。恭兄さんなんかは、三つ編み解いてせめてコンタクトに。って言っちゃったりもします」
僕はそのままでも可愛いし、いいと思ってるんだけどね。
「ふーん。そーだ。今度、芹香が会ってみたいって言ってたから、連れておいでよ。ゲームならウチでもできるし、食事も心配ないし」
そんなことを言う鎮先輩に従って、クリスマス。
僕より芹香ちゃんと遊んでる蘇芳さんの姿があったりする。
ムードとかはないけど、楽しそうでほのぼのする。
ざっくり編まれたセーターとジーンズ。癖っ毛を無理やり三つ編みにまとめてる。シルバーフレームの眼鏡のレンズはぶ厚め。
おしゃれなんか興味ないとばかりのノーメイク。
「たーのーしーそー」
棒読みする隆維くん。クッションを抱えてだらだらしている。
「涼維。クリスマス予定向こうで過ごすことになったもんなー。外し難いおよばれが多いってさー」
少し続く愚痴を聞いていると鈴音が寄ってきて隆維くんをゲームに誘っていった。
冬のテラスは寒い。
でも暖房の効いた部屋で過ごした後だと気持ちよかった。
「宗。寒くないの?」
後ろから蘇芳さんの声。
「平気。人、多かったけど、大丈夫?」
蘇芳さんはあまり人ごみとかが得意ではない。
「まぁ、なんとかね。宗は風邪とかひきやすいんだから、気をつけなきゃ」
うろなに来る前は熱を出したり、怪我をしたりで出席日数がぎりぎりな年も多かった。
だから、心配されるのもわかる。
「うん。でも、うろなに、この町にきてから風邪もひいてないし、あんまり、ドジもしてないと思うよ」
蘇芳さんからの心配が嬉しくて、吐く白い息と寒さで少し赤くなった鼻の頭を見つめる。彼女の方が寒そうだと思った。
そっと、彼女の首にマフラーを巻く。広げればストールにもなりそうな大判。
「気にいってくれると嬉しい。少なくとも防寒にはなるよね?」
こんなかたちで渡すクリスマスプレゼント。カラーは鮮やかな赤。モールで見つけて衝動買い。
ふわっと眼鏡が白く曇った。
「あ」
白く奪われた視界に蘇芳さんは声をあげて眼鏡を外す。久しぶりに眼鏡のない顔を見た。
度のない状況で見つめられるとドキドキする。
「宗に身長抜かれてたのかぁ」
目線はほぼ一緒。
「蘇芳さん」
蘇芳さんがにっこりと笑ってくれる。
「ありがとう。あったかいよ」
なんとなく、手を繋ぐこともできずに冬の海を眺める。
「兄さんじゃなくてもいいですか?」
蘇芳さんと兄さんは僕とより打ち解けて仲が良かった。だから、きっと、義姉さんになるのだと思っていた。
「僕は兄さんと違ってなにもできないです。きっと失敗もたくさんします。うまくわかっていくことができるとも思えません。それでもいいですか?」
不安だった。できることはいつだって兄さんが凄かった。誰だって兄さんの方が好きになる。僕を無条件で好きと言ってくれるのは兄さんだけだったから。蘇芳さんが僕の方が好きと言ってくれる言葉を信じきれていない。
「大丈夫。宗が好きよ。失敗したら助けてあげる。だから、そばにいてくれればいいの」
ギュッと腕に掴まって寄り添ってくれる蘇芳さんのぬくもりに中から呼ばれるまでしばらくテラスにいた。
冷えてるはずなのになんか、のぼせそうだった。




