幸せですか?
2014年11月23日
「千秋さんは幸せですか?」
頑張って聞いてみたら、少し驚かれたけど、笑ってくれる。
「幸せだよ?」
すとんと言われてホッとした。
「え!? 自分って不幸って思ってそうなのに!?」
それなのに隆維がそんなことを言った。
「隆維」
千秋さんの声は低かった。
「不幸と、不満は違うんだよ?」
隆維が少し悩むように、それでも頷く。
「俺はね、不満はあっても自分が不幸だなんて思ったことはないんだよ」
「まじ?」
疑うような隆維の言葉に千秋さんはゆっくりと頷く。
「不満はたくさんあるよ。答えが出ない。情報が足りない。納得できない。これは不幸じゃなくて不満。対応策を出すのが難しくても足掻いているうちに道は開くかもしれないしな。それを試せるうちはまだ不幸じゃねーんだよ。比べた時、その状況があったことが全部悪いことしかなければ、それは不幸なんだよ」
苛立たしげに言葉を吐き、おさめるようにふぅっと息を吐く。
「生まれてきて不幸だったかと聞かれたら幸せだって答えられる。彼女と出会えたことは出会えないよりずっと幸せで。何を無くしてもその上で彼女を想える幸福感を教えてくれて幸せだろう。彼女を思うことでなにかを失うなら、それは少し歪んでいても幸せなんだよ。そこにあるのは好きだという感情だから」
あの夜の会話。
それはきっと千秋さんの本心だった?
「産まれる為に誰かに不幸をもたらしたって言われても、それは俺のせいじゃないしね。自分が不幸を感じてるから、誰かも不幸になれとは思わない。と言うか、そーゆー考えにつきあうことが馬鹿らしい」
トントンと指が動いている。
「隆維は不幸せ?」
「は? いきなりなに?」
「だから、上手く回らない。ままならない周り。そーゆー中にいる自分って不幸?」
彼も全てが万事うまくいっているわけじゃない。体調を崩したり、状況は良いとは言えなさげだ。
「不幸じゃないよ? 涼維は元気だし、友達増やしてるらしいし、妹二人も元気に頑張ってる。そばにいないからって不幸はないよ。ああ、不満ね。おっけー。なんかわかった」
「そっ。わかってくれたなら嬉しいよ」
どうしよう。
ちょっとよくわからない。
「愛菜は、なんか不満ある?」
「不満」
隆維が指を立ててチッチっと揺らす。
「そーゆー行動はウザいから不満だな隆維」
千秋さんに言われて頷いた私に隆維は笑う。
「人によってはこんな真似をされなきゃいけない自分って不幸ってなっちゃう人もいるんだろうな」
「自分が何とも出来ない範囲の不満に苛立って不満を不幸にするのは馬鹿らしいけどな」
不満。
「ママと花ちゃんに置いていかれた、私が不満だわ。どうして、こんな病気が存在するの? 役に立たない自分が不満だわ。どうして、私は無力なの?」
それはうまくいかないまわりをたとえるのにとても適切で。不幸せじゃなくて不満。
「愛菜ちゃんは無力じゃないよ」
そっと差し出されたホットミルクティー。
「一度、発病したら取り除いて、入れ替えるしかないリスクを知った上で生きてる。そして大切だと思う人のために頑張りたいと思える。それは無力じゃないよ」
ミルクティーは甘い。千秋さんがどういう病気かの一端を知っていてくれた。
「でも、うまくまわらないと不満が重なり過ぎてこれって無力で不幸って思っちゃいそうだよな」
千秋さんの笑顔が苦味を帯びて感じた。
「内側に入れて家族でさ、大事で守らなきゃって思っているのに。……相手にされてないことに気がつかせられたり、無意識では気がついてたかもだけどな。実は向けられてる感情って同情? って思わなきゃいけない状況だったり。守ってるつもりが守られてるだけだったりさ。無力な不満は重なると本当に重い」
「人の感じ方ってそれぞれだよなー」
重い千秋さんの発言に棒読み口調で隆維が応える。
「愛菜ちゃん」
千秋さんと視線を合わせる。緑の目が私を見下ろしている。
「不満をね、わかるようにまとめれたら少しは楽になれるかもしれない。少なくとも俺には効果あったからね。まぁ募る部分もあるけどな」
言いつつ、隆維を睨むのはよくわからないけど。
適温にさめたミルクティーを飲みながら考える。
不幸せだとは思わない。でも、幸せとも言い切れない。
「ママと花ちゃんは不幸かな?」
言ってみて、不幸ではなかったんじゃないかと思う。
完治させるに至らなくても症状を沈静化させたり、発病自体を抑えて少しでも長く生きれる方法を編み出せたことを幸せと言ってたと思う。
ふと、物思いから醒めると。
千秋さんと隆維の口論が勃発していた。
え?
どーすれば、いいの?




