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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014秋
670/823

2014年11月22日 美丘愛菜

 月のない夜。

 姉のようにひどくはないけれど、やはりどこか日差しは苦手。

 天然光のない時間はとても読書やタブレットにむかうのにむいている。

「愛菜ちゃん。夜更かしはダメよ」

 彼女をお母さんと呼ぶのもママと呼ぶのも躊躇われる。

 それでも彼女は私の母になろうとしてくれてるのだと思う。


 そう考えるようになったのは『おまえが幸せにならなければいけないんだよ』と父である人が言ったから。



 とても聞きなれた言葉だった。

『人には幸せに生きる権利がある。私の幸せはあなたが少しでも健康に近く生きれること。いつか、この病を克服手段を見つけること』

 そう言ったのはママで。

『元気でいられるんなら病気のことから離れて幸せでいて』

 そう言ったのは花ちゃん。

 でも、私も仲間に入れてほしかった。

 病の原因は自分の中にあるからと、自分を切り開く研究を重ねる。なら、参加者は多い方がいいと思って主張したら父は難しい表情をし、彼女は私を抱きしめた。

「誰が、子供に痛い、辛い思いをさせたいものですか。そんなことを言わないで。きっと亡くなったお母様もお姉さんも望むはずがないでしょう?」

「役にたたないから?」

 鎮さんもダメって言ったわ。

「いいえ。大切だからよ。治療が一歩進むより、『愛菜』に幸せを求めてほしいから。他も知ってほしいから。愛菜ちゃんが外で、幸せの種類を、たくさん見つけること。きっとそれがお二人の幸せに繋がるんだと思うの」

 抱きしめられて撫でられて、ぼろぼろと涙が落ちる。

「役になんかたたなくていいの。愛菜ちゃんは愛菜ちゃんのまま幸せを知っていってほしいわ。それに、急がずに幸せ探しも、病気の研究も続けれるわ。まだ中学生なんですもの」

 でも、でも。と言葉にならない言葉が出かける。

 それじゃあダメなんじゃないかと思ってしまう。

 空はひとつで違う道を歩く。と言われても。それでいいと言われても。ダメじゃないかと思わずにいられない。

「背伸びしなくていいの。誰かの代わりになんてならなくていい。そうね。少しだけ『おかあさん』として甘えてくれると私は幸せになれるわね」


 そんな会話をした。

 たくさん、あの日泣いた。

「おかあさん、コンビニいってくるね」

「あら、遅いんだからダメよ」

「すぐだから」

 ゆっくりと、おかあさんと呼ぶようにした。はじめて呼んだ時、普通に振舞いつつぽろぽろ泣いてたのを知っている。

 秋の風が冬に近づいていく。

 次は父の人をお父さんと呼ぶことだろうか。

 コンビニでノートとちょっとしたお菓子を買う。簡単に摘めて手の汚れないもの。

「なにやってんの。遅い時間に」

 コンビニから出て少しいった時に声をかけてきたのは千秋さん。

「買物」

 コンビニの袋を見せれば、「ああ」と頷かれて並んで歩く。あれ? ほうこう?

「送る」

 少し、気まずい気分だった。

「そーだ。愛菜ちゃん、知ってる?」

「はい?」

 いきなりだった。

「レックス」

 出た名前は知ってる人だった。

 ママや花ちゃんのお手伝いをよくしていたお兄さん。私の相手もしてくれた。

 いつもジーク・ギブソン・レックスの三人でつるんでいたように記憶している。

「はい」

「そう。先日父親になったらしいよ?」

 驚いた。

 そんな相手がいるなんて聞いてなかったから。

「子供の遺伝的両親はギブソンと花。名前はまだ教えてもらってない」

 千秋さんが笑う。

「びっくりした?」

 言葉が出なかった。ただただ頷く。

「花ちゃんの子供……」

「いつか、姪っ子に会えるかもね」

「千秋さん」

 そこはもう家の前で。

「その子は幸せになれる?」

「さぁ。それは流石にわからないよ。でも、レックスは子供を愛して可愛がって、最善を尽くすと思うよ?」

 レックスはいい人だったと思う。ギブソンだって。

 三人とも明るくて優しかった。

「愛されて可愛がられたらその子は幸せじゃないの?」

 千秋さんが苦笑する。

「愛菜ちゃん。幸せ。ソレを感じるのはあくまで本人だよ? どれほど不幸だ、間違っていると言う状況でも本人幸せだってケースもあるし、同じようにまわりがどれほどあいつは恵まれて幸せなやつだと羨んでも、幸せを感じることができないことだってある。俺はさ、えらそーなこと言えないよ? だから、人が幸せになれるかどうかなんてそいつ自身の心のあり方だから。わからない結果は答えられない。君は今、不幸せ?」

「不幸せだとは思わない。思えない」

「じゃあ、幸せ?」

「わからない」

 不幸せだとは思えない。幸せだとも思えない。でも、どちらかと言えば幸せよりな気はする。

「不幸じゃなくて、幸せかもしれないんなら幸せでいいんじゃないかな? じゃあ、またね」

 少し、考えていたらさっと人感センサーとは違う光が追加される。

「おかえりなさい。早く入ってね。風邪をひいちゃうわ」

 おかあさんの声。

「そこまでまだ寒くないと思うわ」

「あら。油断大敵よ」

 軽やかな笑い声に落ち着くようになったのは泣いてからかもしれない。



「ただいま。おかあさん」







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