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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014秋
669/823

一人飯は拒否で。

「死ね。地獄に堕ちろ」

 地味に傷つく。

「なぁ……、千秋兄ぃそこまで不味そう?」

 とりあえず、作った朝飯を確認。テーブルの上、窓から差し込む朝の光に晒されるメニュー。

 混ぜ込み若菜ごはん。納豆卵焼き。昨夜の残りの南瓜の煮物。サツマイモの味噌汁。林檎ジュース。肉っ気の方が良かった? それとも洋食? 俺は米が食いたかったんだよね。

「あ?」

 味つけ失敗しちゃいないと思うんだけどな。無理やり起こしたから機嫌悪いってわけじゃないだろうし。

「隆維?」

「うん」

 っていうか、っていうか、俺がいるの忘れてたな!?

 呼びながら首かしげたな!?

 それはそれでひっでー。

「悪い。さっきまで電話中だった」

 外したイヤホンマイクをくるくるとまとめあげながら並べ終えた朝の献立に目を落としてる。

 電話中だった……って、どーゆー相手だよ。

「うまそうだと思うけど、ちょっと多くないか?」

「多くないよ? ウィンナーはやめといたし。涼維なら、これにタマゴサンドとウィンナーは必須だと思う。あとサラダ」

 俺はあんま動かないからこんなもの。で千秋兄にも同量を準備した。多くない多くない。並べてる時に気がつかない千秋兄の負け。


「いただきます」


 黙々と食べ始めて途中で雑談。学校、どうだとか、体調どうだ? だとか。

「恭君来てたみたいだね」

「うん。途中で空ねぇも来るんじゃね?」

「あー。鎮が禁断症状出す前にって奴?」

 禁断症状って。ちょっと響きが笑える。

「昼食った後、毎日、毎日毎日毎日毎日、空ねぇにメールしてんの見てるからね。合言葉は『空成分が枯渇しそう』な。受験しくっちまえ」

 そ、それはちょっとウザい。でもしくっちまぇは本気でないにしてもダメだろ!?

「さっきの電話は?」

 無理やり話題を切り替えたらチラッと視線を向けられた。目がすわってる。

「夏に結婚した新婚夫婦。だんなの方」

 ん?

 リア充爆発しろって奴?

「結婚披露後のうちうちのパーティで乱交パーティ企画する馬鹿は死んでいい」

 ち、ちがった。

 あー。でも、それは死んでいいかも。仮にも新婚だろって感じだな。

「にーちゃんも混じったの?」

 参加したって言ってた結婚式だよな?

「混じってねーよ。とっととあてがわれた部屋に立てこもった」

 食欲が失せたらしく箸を止めてちょっとダークオーラを振りまく千秋兄。実はいやな思い出だったらしい。えっちいことは好きでも趣味嗜好ってあるよな。

「起きたら、半裸の花嫁が寄り添ってた日にはマスターキーかよって思ったけどなー」

 眼差しが遠い。帰ってこーい。

「いただきます?」

 ヤバいとは思うけど、乱交パーティーから逃げた花嫁の避難先に選ばれただけってわけじゃなさそうで。やっちゃった?

「寝巻き着てたし、動けないように拘束されてたので、無実を主張する。つーか、んなサプライズいらん。うけない。萎える」

 機嫌バロメータは食欲と共に急速下降中のもよう。

「そっかー。そういう一派はいるよねー。でさー、残さないでね?」

 この話題、祥晴の前ではさすがに避けたんだなぁとは思う。

 でもさ、俺、朝飯頑張って作ったよ? 残さないでよと視線を送るとしぶしぶと箸が再動する。

 うわー。そんな機械的に食べられると少し傷つく。

 南瓜はこっちに回収するけどさ。

 つい、いっそ食うなって言いそうになる。


 そこまでの情報じゃ理由がわかんねーんだよなぁ。

 時々、千秋兄ぃのそばでさまよう半透明の手のイメージ。

 前は思わなかったからその間に何かあったと思うんだけどなー。

「千秋兄ぃ、手って言われてなにを連想する?」

「て?」

「手。ハンド」

 ひらひらと手を振って見せる。苦笑してから考えはじめてくれる。

「掴む。握る。体の末端」

 じぃっと千秋兄が自分の手を見てる。

 記憶を探っているのか、視線の先が追えない。

 繰り返される握るような掴むような仕草。

 視線はすとんと手に落ちた。

「買物に街に連れて行かれたんだ。はぐれるなって言うくせにはぐれやがるしさぁ。そしたら路地にさ、放り出されてたんだ。ゴミみたいに。……視線を感じてさー」

 えっと、それは、見ちゃダメとか、呼ばれちゃダメって言われるアレじゃないの? いわゆるアブねーって奴。

「んで、そばに寄ったらやっぱ、目が合ってさぁ」

 寄ったの!?

「でも、動けねーみたいで、しらねー街だし、ほっとくのもなんだし、動かしたらまずいかもって思ったからあいつが探しにくるのを待つことにしたんだよ。ぼろぼろでさぁ爪とかもゴミなのか乾いた血なのかわっかんねー感じでさ、せめてジャケットってかぶせてさ、手を握ってた」

「連絡は?」

「通信手段は没収されてたんだよ。自分といる時は触るなって言われて。最悪。ようやく来たと思ってなんとかしてって頼んだら、『もう死んでるから無理』って言われたんだよなー。スッげー軽く命って消えるな。でも、もう痛くも苦しくもねーよなぁ」





 あー。

 それで連れて帰っちゃったんだー。

 害意はなさそうだけど。


「千秋兄ぃ」

「んー?」

「ちゃんとさぁ、地元で心療内科あたってみねぇ? 若にーちゃんも必要だし、千秋兄ぃにもいる気がする。食事がおいしく食べれないのはいい傾向じゃないよ?」

 鎮兄ほど破綻してると病院ってマズイ? って思うけどね。むこうの医療機関が千秋兄をマトモに『治療』しようとしているのかが気になる。

 じーちゃんは日本では診療できないしね。

 一応、俺らのカウンセラー兼警備のトップらしいけどさ。

「言っとくけど、心霊体験した。なんて言ってないからな? それっぽくても違うからな? 俺が見つけた時には、死んでたハズって言われたけどな……。俺、おかしいのか?」

「おかしいよ。ごはん食べれない。味わかんない時点でおかしいに決まってるだろ?」

 間を開けずに答える。

 なんと言われようと、おかしいし、その時点で死んでたって言われるんなら心霊体験だから!

 死体って気がつかずに手を握っちゃってたのはおかしいって!

「味は、わかるし」

「今は。だよね」

 恨めしげに見られてもね。

「でもさ、よく路地に入ろうと思えたねー」

 俺なら遠慮したい。

「だって人が倒れてると思ったしさ」

 じっと見つめると何? と言わんばかりに視線を合わされた。

「倒れてたら、助けなきゃだろ?」

 ごめん、千秋兄ぃにそういう発想力があるって思ってなかった。ナチュラルスルーすると思ってた。

「隆維だって、助けるだろ?」

 助ける?

 どうだろう?

 まず自分にかかる危険度を俺は計算する。そこに涼維がいたら涼維がソレを見ずに済むように動く。

「わかんない。だって、ちゃんとリスクも考えないとさー。首突っ込みすぎると動けなくなるし、迷惑になるからちゃんと切るところと取るところは区切らないと」

「知らない方がいいってヤツかよ?」

 不満げな言葉。

 芹香も、鎮兄もバートママも『マズいライン』は千秋兄に情報を渡さない。

 だからって俺が知ってるわけでもない。『何か』を感じるだけだし、帰って来て鎮兄の一面を知ったくらい。

「千秋兄ぃはさ、ミホちゃんに怪我させても平気だったからさ、そーゆーの気にしないって思ってた」

 ズラす。

「ああ。ミホだし。健も鎮もいたからな。あの場には」

「内側認識した相手には容赦ないなぁ」

「知らなくていい。それは守ろうとしてくれてるのかもしれないけどな。頭では理解するよ? でも、納得できない。割り切れない。不満だけが募るんだよなぁ。伯父さんの行動に隆維だって。ああ、違うな。隆維の行動に涼維が不満を感じてたのは気がついてたろ?」


 強引に話を戻されるのはしかたないかとも思う。


「気がついてたよ。知らないでいてほしいって言うのはわがままだよ? 終ったことは終ったことってゆーのが千秋兄のモットーでしょ? 前提は終ったことだろ?」

「だから、わかってるけど、納得できないんだよ。隆維」

 なにー?

 機械的に食べてるついでにデザートも差し出してみたんだけど気がついちゃったー?



『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

空ちゃん、お名前だけお借りしております。

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