恭の受難?
満翔はのんびりと背を伸ばす。
「宗が跡継ぎって恭はそれでいいのかい?」
矢代満翔。
本家の次期当主だ。
本家は三桁単位の期間を主家を盛り立てる立場についていることを誇っている。
同世代であり、遠縁。立場の差はあれど仲は良い方だと思う。
「私は君の方が慣れていて楽だったんだけどね」
「ありがとうございます。ただ、宗が仕えるべきと思える方に出会えたというのなら、我ら兄弟はそれを立てるべきと考えております」
「そうなるだろうね」
型通りの返答に答えはすっぱりとおりる。
「貴方も、御当主様が家など継がぬと飛び出されたらそれを応援なさるのでしょう?」
ありえない仮定。それでも満翔は笑って答える。
「そうなるね。そうそう、若がそちらの天音さんを気に入ったらしくてね、すぐとは言わないが、考えておいてくれるかな?」
どこで見たのやらとも思うが、一族間で片がつくなら問題は薄い。満翔もそう考えたのだろう。
「承知いたしました」
「宗に確認しなくても構わないのかい?」
「本家の意向は立てなくてはならないでしょう?」
お互いに小さく笑う。
「残念だなぁ。兄弟うちに主君見いだす者が出なければ側近にとりたてたかったのに」
「役に立てることがあれば、お気軽に」
「対価が高そうだ」
当然のことを笑う。
十月二十五日。土曜日。
十月も末に近く、ようやくうろなにまた来れた。
九月にホットミルクで潰されて以来のうろな町。
学園祭と体育祭、修学旅行と続き、来ることができなかった。
本当はきっちり状況確認をするべきなんだとは思う。
ただ、今日はする気が起きない。天音さんの様子の確認もあるしなぁ。
「おはよう。恭君」
「おはようございます。鎮さん」
挨拶しつつ、修学旅行のお土産を渡す。消え物です。無難に。
遭遇が浜辺なのは空さんとの待ち合わせでしょうか?
「おー。ありがとう。そーいえば、昨夜エルザと対話したんだって?」
楽しそうだったよと笑う鎮さん。こっちは楽しくありませんから。
「あの女、排除したいんですが」
瞬間、動きを止めて、鎮さんは笑う。
「ダメ。なんかあった? エルザ、結構いたずらが好きだから」
空と仲いいしねと続く。そーですか。空さんも向こうよりな可能性があるわけですね。
そう、些細な情報収集の一環。駄犬二号さんが比較的事情に明るい人物でうろなにいる率が高い人物と示した人間がエルザとミツルという人物。
エルザさんと話す機会を作ることはできました。志狼さんはそっち系の名前は知らないという役立たずぷりでしたしねぇ。さすが駄犬。
その上で、まさに腹の探り合いしかできなかったわけです。アレはかなりの人間嫌いですね。嫌がらせ大好きだったじゃないですか。
そう、ミホさんに目撃されて、誤解されるように動いたエルザさんを阻止できなかっただけです。
『外人の美人おねーさんってかっこいいもんね。きょーくん、がんば!』
言われた時に否定しようとする僕に背後からしなだれかかって、
『あら。わたし、年下もスキよ』
『おー。きょーくん脈有りだってー♪ よかったねー』
うふふと笑いあう女性が二人。
ちっともよくねぇ。
どーして、本命に応援されなきゃいけないんですか!
「恭君はミホちゃんのどーゆーとこが好きなの?」
「……空さんのどーゆーとこが好きなんです?」
「全部」
あー。ふるんじゃありませんでしたね。
つらつらと語る言葉は止まらない。あー。もうわかりましたから。と言っても聞かないんですよねぇ。
結構、繰り返しも多いんですが、空さんが可愛くて優しくて世界一なのはわかりましたから。
「ミホさんはお世辞にも世渡りがうまい方ではないですよね。イマイチ足りない判断をして、失敗してるタイプですよね。利用されてもあんまり気がつかないところだってあって、いいように扱われやすいですよねぇ。体はイイわけだからそこを健に利用されることも多いんでしょうねぇ」
そこがまた可愛いんですが。
「あ」
どーしました?
視線の先は背後。背後? 空さんでも来ましたか?
「ミホ、おバカだけど、健に利用なんかされてないもの!」
なんで、ミホさんがいるんですか!?
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
空ちゃんお名前のみお借りしました。




