7/19 おかえり
「あーー。おもしろかった。あの二人の漫才飽きないわー。年末晦日に行く吉村もいいけどあの基本周到はいいわぁー」
あーやちゃんは二人を見送ると、ポスター片手に少し身をかがめきゃらきゃらと楽しげに笑う。
「あーやちゃん」
「あっちゃんもそう思うでしょー? はいポスター適切な場所に貼ってねー」
あっちゃんがポスターを受け取り、綺麗に伸ばしていく。
「年末に行く吉村って、あーやちゃん好きだもんね」
昔、母親に連れて行ってもらった舞台だ。
芸人さんに『晦日の準備もせずになにしとんねん』と突っ込まれて面白かったっけ。
「うん。好きよぉー♪ いいよねー舞台のあのお約束のノリ。最近のお笑いさんってよくわかんないお笑いさん多いしー。失笑系のお笑いさんはお笑いさんじゃないと思うの。うん」
ふっとまじめな表情になってこっちを見る。
「さーやちゃんもそう思うよねー、初見で芸人さんの発言って気がつかずにまじめに同情しちゃってたもんね。笑いとるどころかお涙頂戴?」
「あーやちゃん!」
まじめなのは最初だけですぐからかうように続ける。
こういうときあっちゃんは笑っているだけだ。
どっちの味方にもならない。
ひとつ息を吐く。
「だからね、あーやちゃん、わたしが問題にしてるのはね、あっちゃんもよ!」
「ん?」
疑問符を掲げてあっちゃんも、あーやちゃんも首を傾げる。
「どーして鎮も千秋も、もちろん隆維、涼維も! ちゃんと目上に対する礼儀とか、自分の進路・目標についてとかをほとんど考えてないのよ!!」
「必要になったら嫌な思いしつつ覚えるだろう? それこそ進路なんて自分で決めないと。人の意見に従うものでもないしなぁ」
あっちゃんが不思議そうに言う。
昔っからやりたいこと、なりたいものが多かったのは伊達ではない。
それぞれに必要そうなことは自分で調べてトライしていた。
『やりたいと言ったことを支援する』
それがあっちゃんの教育方針だ。
隆維と涼維に関してはそれプラス奥さんであるルシエさんの実家での幼少教育があるので多少違いは生じている。
「方向性を示したり、ちゃんと相談にのってあげたり、無理やりにでも悩みを吐き出させる必要も時にはあると思うわ」
「あら、さーやちゃんは途中で放り出したでしょ?」
ふわりとあーやちゃんが笑う。
言葉に込められた棘は凄まじい。
「あの子達の中では今でも私じゃなくてさーやちゃんがママなの」
ぷいっとあーやちゃんが奥に歩いていく。振り返らない背中がすごく胸に痛い。
「さーやちゃんもあーやちゃんも悪くないよ。うちの子達には三人もママがいるってだけだし。それぞれ立ち位置や役割は違うんだしね」
「あっちゃん、それを理解できるような人間はそういないと思うわ」
「え? そうかな?」
「それを素直に受け入れることが出来たらあーやちゃんや、わたし、子供たちだって悩まないと思わな……いからそう言う発想かぁああ」
頭を抱えてしまう。
そう、あっちゃんはこーゆー人だった。
普通だと一瞬勘違いしてたわたしがきっと悪かったのよね。
「さーやちゃん?」
うん。決めた。
「鎮と千秋に謝って一発ずつ殴って抱きしめて説教コースね!」
「うわぁ。二人とも災難だなぁ」
あっちゃんの言葉なんか知らない。
「まぁ、さーやちゃん、おかえり」
うろな町役場企画課のお二人が帰った後の話です。




