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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014秋
659/823

十月十一日 千秋

 十月十一日。

 なんてことのない土曜日だ。


 ひょっこり顔を出した健が出掛けないかとふってくる。

 たまには構わないかとも思うけど、ジークとの先約があって断った。

 待ち合わせはうろな駅。

 同じ教授の講座で組むことになった女性との待ち合わせ。

 彼女は滝瀬(たきせ)毬佳(まりか)。二十歳。

 日本人形のような女性だった。

 まっすぐな黒髪は腰のあたりまで下ろされて、瞳は淡いブラウンの入ったダーク色。日本人にありがちカラー。ただ、肌は黄色人種とは違う白桃の白。

 臙脂色の地味なワンピースが肌の色を引き立てる。

「マリカ!」

 ジークが嬉しげに手を振る。

 俺はそっと頭を下げる。資料は集めていたが、報告とかはジークに任せていたので彼女との接触ははじめてだ。

「死ね。役立たず」

 ビクッと萎縮してしまった俺に彼女は微笑んだ。言葉はジークに向けられていた。ジークは照れたように笑っている。

「はじめまして。滝瀬毬佳です。ジークにデータをデリートされてしまって」

 困ったような微笑。

「はじめまして。日生千秋です。まだ、高校にも通っているのでジークの行動管理はしっかりとできてません」

「しかたないわね。もしかして初耳だった?」

 頷く俺に手を差し出す毬佳さん。

 握手して余所行きに笑いあう。

 失われた情報を突き合わせつつ談笑。

 資料集めも兼ねて図書館に。

 ちょっと、鎮もいるかもと思ったけれど、用事があるのだからしかたがない。ひっそりとジークに殺意がわく。

 それとない距離を作りつつ過ごす。最近の鎮との距離感。不満はある。でも今は詰められない。

 図書館ではランバート兄の友人。風峰潤が図書館の田村女史と喋っていた。お付き合いが再開しているとまた聞きしていた。

 リア充ってヤツだ。さり気に今日この日に聞くと気分がささくれる。

 そんな彼がふとこっちを振り返り、驚いた表情を作った。すぐに破顔して寄ってくる。田村女史の手を強引に引っ張って。嫌がってると思う。たぶん騒ぎになるのを。

「毬佳。こっちは桐子っていって俺の嫁さんになる人な!」

 朗らかに、堂々と宣言した。

 沈黙の数秒。

「潤は浮ついた噂も多く、身勝手で責任感薄いですよ?」

 毬佳さんは硬い口調で言い放つ。水を差す気バッチリだ。

「そうね」

 対する田村女史は穏やかにしかたなさそうに微笑む。

「ひでぇ」

 酷いとも思ってなさそうな様子でぼやく当人。ひどいのはあんただ。

「仄くんにも言われたわ」

「そうですか。分かってらっしゃるんならよいと思います」

「おまえさぁ、未来のねぇちゃんと仲良くする気ある? 俺これでも勇気を出して紹介したんだぜ?」

「まず、妹として紹介してからそのセリフを使うべきだわ」

 ばっさり切り捨てる。

 そして田村女史に向けて笑顔。

「滝瀬毬佳といいます。よろしくお願いします。桐子おねえさま。日生君、ジーク、課題に使える時間は限られてるのだから、ごめんなさいね。時間をとってしまって」

 後半は俺達に向けてと田村女史への近づいてくれるなというけん制。

 こ、小姑がいる!

 その後は大人しく資料を集め、整理し、作業に集中した。毬佳さん、機嫌悪かったしね。

 昼頃まで図書館ですごして、一度、毬佳さんに微妙な対応をされた。

 ジークは『シズでもいたんじゃない?』といって気にも留めない。ありそうなので俺も流す。

 ちらちらとジークは様子を窺ってくる。

「イラつくんだけど、ジーク?」

「だって、おなかすいたー」

 泣き言を言うジークに毬佳さんが時計を見た。

「あら、もう二時ね。帰らなきゃだし、ご飯食べてお開きにしましょうか?」

 時計を見て、時間を確認して、ああ、そんなに経ってたんだと思う。

 今日がさっさと過ぎればいいのに。



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