九月二十八日 長船祥晴Ⅱ
「あー」
「やっちゃったかー。りゅーちゃん、ちーちゃん止めにいったほうがいいかもしれない」
隆維と碧ちゃんが仕方なさげな声をあげている。
「かなー。怒りに任せて追い詰めそうだしなー」
話が見えない。
救急箱。まだ新しい服に散った赤い染み。
「誰か怪我してるんなら大人呼ばないとだろ?」
困ったように顔を見合わせる二人。
ここでわかっていないのはオレだけだ。
「たぶん、またリスカだよなぁ」
「いつものって言いたくないけど、うん、たぶん」
リスカ?
栗鼠か? んなわけねぇよな?
「誰が?」
まさか、最近、歌姫依存症の鎮さん?
想い詰めて?
あーりーそーう。
「んーと、祥晴は知らない相手。若ちゃんっていってうろな来る前のウチでの兄貴分かなぁ」
「昔からのクセみたいなものだから。自殺未遂」
は!?
「飛び降り衝動は少なくなったらしいけど、リスカグセは残ってて、ストレス溜まるとヤっちゃう」
碧ちゃん、フツーですーってニュアンスで言わねーの。隆維も少し引いてるし。やば系ヒッキーなのは知ってたけどって自傷止まりって思ってたって呟かれてもオレも困る。
「あ。しーちゃんどこだろ?」
鎮さん?
隆維も不思議そうに碧ちゃんを見ていた。なんで、ココでその名前が出るのかわかっていない表情。
「しーちゃん、たまに引きずられてマネするコトがあるって聞いてて、そーゆー時はほぼ無意識でヤるから注意がいるってにーさんたちが」
そーゆう事は早く言え!
「鎮兄は確か今日も図書館デートのはず!」
ひっしに思い出したのか隆維の言葉に妙な安堵感が広がる。受験生だったか。そーいえば。
自分が発した言葉に少し、落ち着いたのか隆維は碧ちゃんに視線を合わせる。
「碧ちゃん、ソレ、マジ?」
「うん。だから、若ちゃんの自殺未遂激減したんだって」
だから?
「詳しくは知らないけど、心中はする気なかったからじゃない?」
碧ちゃんもまた聞きとか聞いた情報ぽいと思わせる。ただ、そのだからがどこにかかっているのかわからない。うん。そろそろ許容範囲オーバー。あと、碧ちゃんにとってさほど内密な内容でもないんだな。
「隆維?」
声をかけたら知らなかったらしく首を横に振られた。
「こんな新規こじれネタいらない……」
正直な感想だろうなぁ。オレもいらねぇ。
「祥晴」
「ん?」
「料理女子が奥に来ないように塞き止めといてくれる? ついでに、鎮兄が帰ってきたらそれもついでに止めといて。見てくる」
「一緒に行く?」
「碧は確かに対処馴れてるけど、今ちょっと疲れてるっぽいからいい」
ふむ。
「じゃ、塞き止め碧ちゃんな。行こう、隆維。心配なんだろ?」
「え?」
驚くなよ。
「心配なんだろ? 第三者がいた方が頭冷えねぇ? 隆維も千秋さんも見栄っ張りなんだからさ」
ああ、オレも流されてる。
でも、いつかこの隠蔽体質を改善させてやる!
できるか、な?
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
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ちらりと空ちゃん、お借りしました




