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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014秋
654/823

九月二十八日 長船祥晴Ⅰ

 商店街の美容室『シェーン』

 じーさんが切り盛りしている。

 ばーさんはオレが産まれる前にはもういない。

 両親は親父の海外赴任でどっかいってる。

 十歳上の姉貴は美容師としてワールドワイドに活躍中だとか。修行を終えたらじーさんの後釜狙いらしい。帰ってこない以上関わりが薄くてあんまり関心はない。それぞれが好きなこと。

 オレはまだ将来のコトは具体的には見えてこない。

 植物は好きだけど、好きなだけで農業高校に進もうかとも思えないし、専門的に知りたいかって言われればそこまでじゃない。

 ただ好きなだけだ。

 そして、好きなことは趣味でやるべきで、生活の手段となり得ることは別の方がいいと思ってる。

 趣味であれ、仕事であれ、逃げ道を見失ってしまうのは嫌だから。

 こう考えてしまうとオレって悲観的だなぁと思う。

 それでも、夏休み明けてのテストはまぁ、平均点キープできたしな。

 意外と碧ちゃんが引っかかってて落ち込んでたけど。夏休み何があったんだ?

 日曜の旧水族館で隆維と久々駄弁る。

 要提出の課題にかじりつく様は同情できる。

 学力的にキツイんじゃなくて物量的にキツイらしいから仕方ない。

「手伝えないしなー」

「手伝える!」

 何をだよって視線を向ければプリントが差し出された。

「それリスト。課題プリント揃ってるか、確認して。抜けがあったら嫌だし」

「おう。それくらいなら」

 あっちに行ってる間にもできる分は手をつけてたらしいが、寝込んでた時期もあって清書・書き直しがいるものもあるらしい。読めないものも言ってと言われた。読める。読める。んー、読めるっと。

「こーなるとむこーの学校に放り込まれた涼維の方が正解だよなぁ」

「そーかぁ?」

「出席率が進学に響くだろー」

「病欠じゃ仕方ねーじゃん」

 こないだの月曜日は登校するつもりが発熱で休みだったらしいし。

 不満そうに鉛筆を動かす。

「こっちよりむこうの方が良かったのか?」

 母親がそっちにいるのは聞いている。ただ、問題はあるっぽいけど。

 少なくともこの双子はお互いで完結していると思えるタイプで離れている現状が異常な気分にさせる。

「そーでもない。距離は必要な時期だし」

 けろりと答える。距離? 時期?

「隆維、熱出てねーだろうな。あんま無理すんなよ?」

 飲み物を持って覗き込んできたのは、千秋さん。

「課題には締め切りがあるんだよー」

「熱が出たら元も子もないだろう?」

 置かれる飲み物。隆維は額を確認されている。

「出てはいないようだけど、休憩しな。三人共」

 ぱたりと碧ちゃんが潰れる。

 元々暗い赤毛だった千秋さん。今はかなり手を入れているらしく、軽く明るい。ついでに私服も軽めな服装だ。いいお値段しそう。

「持ってたっけ?」

「むこうで買ってもらった」

「ふーん。にーちゃんに?」

「いや、いきなり連れて行かれた結婚式の主催者(しんろう)に着替え用って。昔からの友達だから、祝えて良かったけどさ」

 隆維も見慣れない服だったのか聞きながら微妙そうな表情を浮かべる。

「にーちゃん。剥かれないように気をつけろよ?」

「相手は新婚だよ。それに剥いてくるんならきれいなオネーサンがイイよな」

「そーいう不純異性交遊じょーほーはいらねーよ」

 不満げな隆維に千秋さんは笑って立ち上がる。

「悪い悪い。無理せず進めろよ?」

「んー」

「じゃあ、祥晴君、あとヨロシク」

「あ。はい」

 千秋さんが出て行くとのんびりとプリントに手を伸ばす。

「イラつくなぁ」

 隆維がそう言って準備された飲み物に口をつける。

 復旧していた碧ちゃんが再びぱたりと潰れる。

 家庭内ストレス?

「あー。喧嘩中?」

「してねぇ。いっそ喧嘩になった方がすっきりするんだろうけどさ。めんどい」

 んーんー。

 涼維には確か言ったけど、隆維にはまだだっけ?

「頼りにならないだろうけどさ、一人で煮詰まんなよ? 話ぐらい聞けるし、無責任なツッコミならできるし、一人で決めて、一人で動くからさ。隆維は、涼維よりさ。相談するとか、苦手だろ?」

 一応言っとく。

「碧ちゃんもな。大人に相談しようぜ。っつーよーな結論でも出せるからさー」

 二人して否定的に顔見合わせんなよ。

「オレ、これでも友情は大事にしたいんだぞ?」

「悩みなぁ」

「悩みねぇ」

 碧、隆維の順に小さくぼやきが漏れる。

「家族内のことだしさー」

「んー。言いにくいよな」

 さすがにムカつくんだけ……。

「隆! 奥進入禁止な! キッチン使ってる女子は特に!」

 怒っているらしい千秋さんに怒鳴りそびれる。

 服に赤い染み?

 救急箱を持って、もう一度、「来るな。来させるな」と言い置いて千秋さんは奥に消えていった。

 なに、あれ?


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