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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014秋
653/823

九月末

 謎の設備修復代と、新規設備買換え費に眉を顰めつつ、周りのフォローもあったので千秋は文句をつけつけ受け入れた。

 今は仕切りのむこうで入力作業中。途中からの音声チャットの相手はフローリアだろうと思う。

 千秋がどれだけの情報をフローリアから得たのかは知らないが、対価無く協力してくれるほど親切な女じゃない。

 フローリアは鎮贔屓だしな。

 というか、ラボ連中は基本鎮贔屓だったりはする。特にウチの部門に関しての最終判断者あいつだし。

 教育中だった千秋と多少とはいえ、役割遂行をさせられていたその差がある。

 で、盗聴は基本。

 妨害・防音がしてあってもスイッチ一つ入れ忘れれば、会話を拾うのは容易。特に内部だし。

 後で要注意案件。

「そこに俺が干渉しないといけない理由がわからないんだけど?」

 不満そうな千秋の声。フローリアは自分の音声データを多少いじっているらしく言葉は聞き取りにくい。

「じゃあ、ミコト。え? 花には関連のない名前だけど?」

 しばらくザラザラ雑音が聞こえる。

「じゃあ、ゲッカ。月下美人ってあったと思うし。え? 日本語でどう書くか? 映像寄越せってどんなワガママ、響き的にはセーカとかの方が呼びやすいか、な? って、いくつ出させる気だよ!」

 がさりと紙の音。文句をつけつつも素直に書いて見せるつもりらしい千秋はフローリアの言いなり風。

 フローリアとなんの取引をしたのかをマジ確認しとくかと思う。

「マーサ、ガッコ行ってクルね」

 抱き着いてきたのはミツル。

 ひょいと俺の耳からイヤホンを抜き取って側に寄せる。

 すぐに嬉しそうに笑う。

「フローリア、男の子はいらないの。マーサも自分の子供いらないって言ってたでしょ? でも、行き場のない子を引き取るのは良いって。入籍したら家族にしたいって言えるんだよね」

 ミツルはそんなことを言い置いて、ご機嫌で登校する。

 ああ。いらない子になるかも知れない子供の名前か。

 庭内部で生まれる子には『親』からでなく他の庭のメンバーが名前を贈ったりする。

 アレは関連性を深め、互いを縛るためじゃないかとも思う。守り手を増やす効果が出ることもあるけれど、そこから逃げる道を減らしているのも事実だから。

 帰れない子供。居場所がない。行く場所がわからない場合、庭の中にはすすんで保護者に、親権者に名乗りをあげる者は多い。それで庭の研究から外れる研究者がいないわけでもない。それはとても双方にとって幸運なことになるのだろう。その先がただの親子関係ならば。

 ミツルの場合、そういうことを繰り返してきた家で生まれて育った。行き場のない子に、新たな居場所を与える。そのことを当たり前にしてきてその思想の中で生きている。家族が増えることをただ、喜ぶ。

 数ヶ月世話になったが、普通に付き合うには信じられないぐらい善良。だからこそ、スイッチが入った様な魔女への傾倒は恐ろしい。

 失った片目。彼は目を悪くした研究者にその目を差し出した。

『あの方の望まれる研究が進むことはなんと喜ばしいことだろう』

 きっと、心臓の移植が必要で、適応するのが自分だったなら喜んで美しい臓器のまま死ねる方法を喜び勇んで考えはじめるくらい、むしろ、怯えを見せれば、優しくたしなめられ、どのくらい喜ばしいことか説明されるのだ。

 無力にそれを受け入れて自分の思考にすれば、同じように次の子にもそれを優しく強いる。それもあって、子供は欲しくない。ミツルはどっぷりそこで生まれているから。

 いくら、惚れた女でも正直、ミツルに育児はさせたくない。

 少し、乾いた笑いがこぼれる。

 どうでもいいとは思っていた。

 幸せに、迎えられて、育てられたうちに入るであろう千秋。

 さほど多くの理不尽を浴びたとも思わない。

 中途半端に踏み込んで何ができるのかと思っていた。そのまま知らずにこの国で生きる道を選べばいいと思ってた。だが、積極的に止めなかったのも自覚してる。そこまで干渉する気はなかったはずだ。

 いけ好かない甘やかされた子供。踏み外せばいいと思わなかったわけじゃない。

「はぁ」

 なんでこんなにがっかりしてるんだろうなぁ。

「マサト?」

「あんだよ」

「なんか、間違って合成でもしたの? 課金アイテムなら自分の収入で課金してよね」

「ぁあ?」

「あれ? ちがった? 重々しくため息ついてるからてっきりそういう凡ミスかと」

 ふと見れば、いつもより早い時間にもかかわらず帰宅準備。

「隆維の課題の手伝い。鎮も一応学習時間増やしてるしね。じゃあ。お先~」

 は、腹立つ!!

 どうしようかと思う。

 アレは聞かせるための通話。

 珍しい、千秋からの『SOSたすけて』。素直に言えない。状況を認めてないわけでもないのにすべて助けろと言わず、最悪回避の道。

 それはどこまでも運頼み。俺が気がつくかどうかすら。

「あら。出かけるの?」

 外から帰ってきたエルザが首をかしげる。

「おう。壁の修復代、千秋のんだからな。で、ちょっくら指輪買いに行ってくるわ。そのまま直帰するから」

 手を差し出す。

「金、貸して」

 大笑いするエルザはそれでも財布を開ける。

「サイテー。でも、ミツル、喜ぶわね」

 数枚の紙幣。

「大丈夫か?」

 せびっておいてなんだがと問う。

「どこかで稼げばいいだけでしょ。当座の食費があれば寝床はあるんだから」

 それでも笑顔を消して指を突きつけてくる。

「生活費はキープしなさいよね。ミツルは子供好きだし、帰るんじゃなくてこっちってなると養育費かかりそうだから、遊び減らしなさいよー。責任者」

 給料は出てる。まぁ生活に困らない程度。雑費は持ち出しが多いから貯まらねぇんだよな。


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