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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014秋
652/823

九月二十日 鎮、空ちゃんと

 そばにいたくて誘っていた図書館デート。そばにいれそうな時間は少しでもそばにいたくてワガママ全開。空はいつだって笑ってそばにいてくれる。

 だからつい困った表情カオも見たくなる。

 誘った時にはこんな展開想像してなかった。

 金曜日、約束して別れた放課後デート。その日のうちにもう一度。

 こんなにバタバタバカなとこばっかり晒してる。


 返す本の入った鞄。

 ウチから離れると揺らぐ不安感。

「んー。空を抱きしめて、キスしたら落ち着くかなぁ」

 足音が止まるのを聞いている。

「空からっていうのは欲張り過ぎかなぁ」

 振り返れば真っ赤になってる空がいて、可愛らしさに嬉しくなる。

「空。おはようのハグしていい?」

 女の子なら、「かわいい」はもうダメなくらいオチテルって誰かが言ってた。

 わからないけど、空はかわいい。それは俺の正義かなとも思う。


 慰めて甘やかして。と甘えつつ空の温もりに浸る。

「あいつら受験生の応援する気皆無にもほどがあると思うんだ」

 千秋は夏の間に決めたし、受験失敗したら戻っておいでとグリフ義兄さんには言われたけど、スルーした。

「キャスとさ、少し話した」

 キュッと握ってくれる温もり。空の温度。空の心音。

「俺にさ、会いに来てくれてたんだって。ごめんねって言うのは迎えに来てあげられなくてごめんねってことらしいんだ。嬉しいと思うんだ。でもさ。ほんとはわかんねーんだ」

 見上げてくる空の眼差しが愛しい。

「キスしていい?」

 言いながら口付ける。

「そう、思うべきだって、どこかで考えるから、そう思うんだ。そう気がついてさ、隆維が空との仲を反対するのも理解できるんだ。それでも、空が望まなきゃ逃がさないけどさ」

 ぎゅっとしがみついてくる重みが嬉しい。

「俺はさ。命って、死んだら終わりだと思ってる。魂とかってわかんねーし、んで、たぶん千秋も似てるんだと思うんだ。父親っぽい立場にいたじーさんは魂を信じてたと思う。思い出すことで亡き人と対話するって言っても、自分との対話だと思うしね」

 懐かしいと思う。魂や死者の想いなんてないと思ってる。それでもソレを信じて、それに思いを寄せる人はいいなと思えた。

 総督だって死んだ誰かに想いを馳せる。それだけその人が大切だったんだなってわかる。

 それでも、俺にはやっぱり理解できないことで、

「だから、仮定で『だと思ってたはず』と言われても納得できないんだ。でもキャスはそう思ってる。俺が『幸せ』でないと『ママが悲しむ』って。でも、死者を使われたら、俺には分からないんだ。でも、キャスは信じてることだから、否定できないし」

 困った色が瞳を過ぎった気がした。

「永遠なんてないから、いつ何があるかわからないから、今、空といられるこの時間が大事なんだなと思う」

 世の中なんて理不尽でままならない。

 魂なんて俺は知らない。

「どうしたらいいかなんかわからない。でも、何を言われても空が好き。よし! 図書館行こう!」

 空がそこにいてくれたらそれが正義(ジャスティス)

 空を覗き込んでみる。

「空?」

 やっぱり、空にぶつけ過ぎ?





 できるだけ、普通に振る舞って、空に甘えて、思ってることを空っぽにして過ごした。

 空を送って、まっすぐウチには帰らず寄り道を。

 ウチに帰りたいと思えなかったんだ。

 恭君が話を聞いてくれるつもりかも知れないけれど、嫌だったんだ。




 誰か居たけれど素通りして奥の部屋。

 暗証番号は問題ない。だからそのままロックして、二人掛けのソファーに身を投げる。ほんのりホワイトベージュ調の部屋にブラウンのソファーはアクセント。本当は白だったけど気がついたら色が変わってた。

 自分が、嫌だった。

 好きだと、愛されていたと望んでいたはずの言葉を貰って、それなのに。そこから回った思考。そうと考えてしまう自分が嫌で仕方ない。

 そんな自分を空に見せたくなくて、知られたくなくて、気づかれたくなくて、そばにいたいのに距離を置きたくてたまらない。

 軽いノック。スマホの着信。空じゃないから出ない。

 わからない。わからない。

 自分がどうしたいかがわからない。

 恭君はラインを作っていきましょうと言ったけれど、そのラインに乗れるとは思えない。

 どうして、キャスを『危うい』と思うのか、話を聞きながら、嬉しいと同時にどうして、誰に『観察』させて、『条件』と『処理方法』を考えてしまうことを止められないのかがわからない。

 自分が変われないことを突きつけられる。

 話を聞いて喜びながら、処理方法を考えて、効率を考えて、利用余地を考える。

 そこまでの判定基準を決めて、気がついた。

 キャスは好意を向けてくれて、ママやグランマが思っていたであろう事を伝えてくれた。

 嫌われる。憎まれていることを想定していたその思いを覆されて。見てくれていた。家族だと望んでくれていた相手。

 それを排除しなくちゃいけない可能性の高さに心の迷う要素が含まれていなかった。

 手を差し伸べてくれた『必要』を『不要』と切り捨てることに疑問を差し挟めない自分が不思議だった。

 わからない。わかっている。

 望まれているように振舞えない。だから、芹香も千秋も俺がいらない。それはそれでいいんだと思う。ただ、そんな俺が、空に不釣合いだという隆維の言葉もわかるような気もする。

 空を、手放す気はないけど。

 思考は沈むばかりで、少し、何も考えたくない……んだけど、ドアを物理で壊すって何考えてんの。エルザ?

「あー。よかったー。生きてたわー」

 清々しい笑顔をボーゼンと見つめる。その手にあるのは防災用の手斧。電子ロック叩き壊して、ドアの枠壁にヒビが入っている。背後でミツルが頭を抱え、様子を覗き込むメンバーが数人。壁の様子に苦笑している。

「すこし、落ち込んでただけ、なんだけど?」

 一人ですべてを遮断する時間がほしかっただけ。その時間は、許されないものだった?

「だって、思いつめた表情で奥に行って引き篭もっちゃうんだもの。いやなこと続きの衝動で。とか思っちゃうわ。……前例はあるのよ」

 そうか。ココでそれを示すような態度は良くなかったんだと思う。どこでならいいんだろう?

 それとも、それは贅沢な悩みかな。

「いやなこと、続きじゃねーよ?」

 望んでいた言葉を貰えて、空と過ごして、嫌なことなんかない。

「そう? 無事ならそっとしておいてあげる。でもソラに何かあった? ってメールで聞いちゃったから安心メール送っとくわね」

 エルザ、なにしてんだよ。

 空に心配させたくないのに。

「黙って、伏せられているのも辛いわよ?」

「気がつかなければいいって思わねぇ?」

 エルザが思いっきり息を吐く。

「女の勘を舐めるんじゃないわよ。踏み込ませてもらえないのも、好きな相手だと辛いわよ」

「エルザ……」

「ねぇ、ソラだけが大事でイイのよ?」

 それは、たぶん、ハードルが高すぎるんだ。

「弁解メール送るんなら、私の強行はヒミツね」

「むり。ここまでの凶行はネタにするしかねぇし」



 ミツルとキャスのことを相談しつつ、空にエルザの凶行を伝える。

「メールの方に集中しやがって」

 ミツルが文句を言うがそこはスルーで。

 よくわかるなとみれば苦笑された。


「ルーカスが危ういのはわかってる。他からも意見は上がってる。ただ、若いし、擁護している派閥の影響力も強い。だから、今は千秋も、ルーカスも、様子見の段階なんだよ」

 ため息を聞く。

「様子見の段階からどう化けるかわからないからな。とりあえず、このラインより緩い条件でいいか?」

 どーせ、ミツルは警告する。

 じゃあ、条件を緩める必要性はない。

「所属派閥は判断基準にいれてねーよ?」




『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

空ちゃん、バッチリお借りしております。

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