九月二十日 恭一郎
コールする。
繋がる。
切られる。
コールする。
繋がる。
切られる。
コールする。
繋がったのを確認、途端、切られます。
苛立ちます。
伝言内容をメッセージで送ります。
既読無視。
普段ならココで折れて相手をしませんが、今日はそうもいかないでしょう。
コールする。
繋がっ……。
「切りましたね。あのバカ女」
「ゲームのメッセで連絡ついたから、もーいいぞー」
「きょーいっちゃん、ごめんねー。ありがとー」
志狼さんと芹香さんの声が聞こえます。表情は見ません。ええ。見ませんとも。
コールします。
邪魔しましょうか。
「恭君、ムキにならない。睡眠不足じゃね? 疲れてそうだけど」
スルリとスマホが手元から抜き取られます。
さっき見た時間を考えて、まだ、宗からは連絡が来るような時間ではなかったはずです。
鼻先に突きつけるように差し出されたカップに驚きます。気がつかなかったので集中力は落ちてます。修行が足りませんね。我ながら。
「ホットミルクで落ち着いてみよう!」
鎮さんの言葉に頭痛を覚えます。
九月です。
まだ、暑いです。
湯気の立つ、ホットミルクですか。
シナモンとバニラ?
何突っ込んであるんですか。これ?
「スパイスも入ってるし、バニラアイスも突っ込んだから、甘さも適度! さぁ、ぐぐっと!」
適度というか、激甘ではないでしょうか?
鎮さんがにこやかに差し出してくるのを受け取って、仕方ないので飲み始めたんですよね。確か。
熱いのでちびちびと。
「あ。起きた。喉渇いてんじゃね?」
隆維さんの声です。
起きた?
目を開けて、息が止まるかと思いました。
視界に入ってきたのは蛇の頭部。
しかも、それなりにサイズがあります。
ジッと観察されている心境です。
ここに蛇がいるのは知っていましたが、対応に困ります。しかも、寝起きに。……どうして、僕は今、寝起きなんですか?
「シアちゃんっていうんだよー。かわいーでしょ」
隆維さんが笑顔でグラスを差し出してくれます。
かわいいかどうかはわかりませんが一瞬、悲鳴あげかけました。声でなかっただけです。というか、放し飼いやめましょう。
するりと蛇は僕の上から隆維さんへと移動します。隆維さんは手馴れた様子で好きなように絡ませています。前にいた子は鎮さんにばかり懐いていたんですか。そーですか。興味ありません。
少し、塩分を感じるフルーツジュース。妙にほっとするのは水分不足と、思ったより寝汗でもかいていたんでしょう。
確かに少々不眠ぎみでした。ですがいきなり落ちるのは釈然としません。
しかも、夕方に見えます。
「隆維さん、僕は何時間寝てたんでしょうか?」
スマホは少し離れたテーブルに置かれています。
宗からの連絡……。
「ん~、気にしなくていいんじゃね? そういっちゃんにはしろーちゃんがアドバイスしてたし。夜に打ち合わせして、早朝弁当詰めてって、寝てなかったんっしょ?」
志狼さんは卒業生ですからわかってるでしょうし、公志郎はつけてありますしね。問題はないでしょう……たぶん。
「あのミルクは?」
「半分、アルコール~」
あははーと隆維さんは気楽に笑ってます。
「何してくれるんですか!?」
急性アルコール中毒で運ばれて退学とかシャレになりませんからね!?
「えー。睡眠導入剤とかは手に入り難いしさー。無難に」
「無難じゃありません!」
ひとしきり危険性について説明を。主に進学面で不利になることについて。
「大丈夫。病院に運ばれることはないからバレナイ」
のんびりした口調で軽い、実に軽い謝罪とドリンクのおかわりを受け取ります。
「鎮さんは?」
「ん~。図書館行くって言ってた。空ねぇとデートかなぁ?」
そーですか。
状態は揺らいで不安定に見えたので少々、気になるんですけどね。
「人の恋愛、気を配ってる場合なんですか?」
向こうの親族の方と縁談が出たと聞いてます。
「美味しいんだけど、鈴音の方がいいかな」
表面に騙されると痛い目見ますよ? アレはいわゆる束縛系のヤンデレですよ?
「可愛いし」
「かわいいですか」
「いっしょーけんめい、俺の求める理想像にあわせようとしてくれるでしょ? 可愛いと思うよ?」
隆維さん、わかって言ってます?
「鈴音さんとの仲を認めるメリットってなんです?」
「さぁ? 俺は家族が平和で幸せだといいなぁ。そこにはもちろん、鎮兄も含むから、そういっちゃんは望むトコじゃね?」
とりあえず、協力路線ですか。
「めんどくさいですねぇ」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
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空ちゃん、お名前ちらり




