九月二十日 騒がしい朝 芹香と恭一郎
「芹香さんは彼と仲が悪いんですか?」
「嫌いじゃないけど、悪いわ。あいつだけは婚約者として選ばない」
断言する芹香さん。
「確かメインの三つでしたよねぇ。昨日聞き出した範囲ですけど」
「セシリアと、シヴィラとフィスカが代表ね。三人とも五年から、十年前に亡くなってるはずよ」
メイン三つと言うだけで連想されたと言うのなら、そのことを考えていたのかと思う。隠しもせず、あっさりと答えてくれる。
不思議そうにしてるのに気がついたのか指を揺らす。
「このぐらいの情報、総督は知ってるしね。聞いてないの?」
「おじい様はそういうことは教えてくださらないんですよ。男女の交渉術なら気楽に教えてくださるんですけどねぇ」
それ以外のことを教わろうと思うと高くつくんですよね。
「ふぅん。興味あるの?」
「ありますよ」
少し思案するように天井を、多分、その先の見えないものを眺める。
「んー。私はセシリアの娘なの。日生のお母さんは代理母ね。ルーカスはシヴィラの孫。フィスカのところにも孫がいて、マテリアだったかな。ルーカスよりおねーさん。継承は女性だけだから、ルーカスは派閥の有力者か、私、マテリアとの結婚を成人までに確立しないと立場的に弱いのね。シヴィラの派閥の立場が」
歌うように続けるがジークさんはさすがに渋い表情。下手をすると攻撃されそうですね。余計なことを知るなと。芹香さんは気にしていないのか、泥沼に引き摺り込んでいいと考えているのかわかりませんね。
大雑把に聞いていくと、代表・魔女と呼ばれたセシリアは技術推進派。シヴィラは心の平安を優先する穏健派? 少し、宗教臭を感じますね。フィスカは知識の追跡分析。遺跡発掘や、失われた知識に特化していたらしいです。
手段を選ばない過激派も、穏やかに研究を進めたい穏健派もどの分野にもいるから、調整が重要になるらしいのは人であるが故ですね。
「確かに夫としてはルーカスが一番の候補よ? 次がセシリアママの弟の息子。情報はないの。他にもいるはずだけどね」
分化してる思想統一か、血統重視かってトコでしょうかねぇ。ふむ。
「つまり、ルーカスさんのお嫁になるくらいなら?」
「……第二、候補がマシだわ」
すっごいいやそうな表情で言いましたね。まぁ、年齢を考えれば、普通に犯罪と囃し立てられる年齢差が想像されますものねぇ。
「声、出てんだよ、恭。ワザとか?」
背後からバインダーか何かで突かれました。あとで仕返す。
「あ。しろーちゃん、ネットゲームできる?」
ちょろりと芹香さんがねだる様に志狼さんに絡みつくわけですよね。実に仲良しさんです。
鎮さん千秋さんと身長とかが近い分懐きやすいんでしょーかねぇ。アジア系外の血が混じっているという共通点もありますし。
「ゲーム?」
「宗がやっている奴ですよ。多分、彼女も。ですよね?」
志狼さんはああ、と頷いて芹香さんを小脇に抱えたり、振り回したりで遊んでいる。
志狼さんは芹香さんのこと可愛がってますからねぇ。女の子にする遊びなのかどうかは悩みますが。
「で、マシだそうです」
「ダブルくそじじー喜ばせたくねーんだけどなー。ま、他に好きな相手できるまでは付き合ってやるわ」
実の父親の血統、志狼さん嫌いなんですよね。
「へ?」
「変な相手に付きまとわれるより、俺で我慢しとけ。何もしやしねーから」
志狼さんに髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜられながら芹香さんが状況を飲み込むまで数秒。
「ゲーム、手伝ってくれないの?」
「は?」
「何もしないんならゲームも手伝ってくれないの?」
「いや、そんくらい手伝うけど、彼女には恭が連絡入れとけよ」
流すことにしたらしい芹香さん、合わせる志狼さん、さり気に距離をとっているジークさん、どこかに報告かな?
「ゲーム!」
「どこでやるんだ? PC車から出してくるよ」
手伝うという言葉に芹香さんは嬉しそうに両手を上げてます。楽しそうですね。
そして、僕には試練がひとつ。
コール何回で、まともに話が成立するんでしょうねぇ。うんざりします。




