九月二十日朝食準備中3
「ちいにー。何考え込んでるの?」
「芹香か」
きょういっちゃんに言われて考える。どこまで気が付かれているのかは問題。
一気にいろいろ起き過ぎれば対処は隙ができる。今は、俺も俺の問題がないとは言えない。俺が他に意識を逸らしたかった部分もあるのだと思う。最悪は避けたい。家族は欠けないでほしい。
「そうよ。わたしよ」
でも今は、芹香に意識を戻す。
さらさらとクセのないプラチナブロンド。外で遊んでいてもあまり日に焼けない肌。夏のワンピースは紺色のタイト。
「手、洗ってきた?」
「当然だわ!」
得意げに胸をそらす。相変わらずの生意気行動。
「オレンジジュース? ミルク?」
「ピンクグレープフルーツ!」
冷蔵庫を覗きに向かう。
「あるのかよ」
「まだ残ってたハズだわ」
言われた通りPGとシールメモの張り付いたボトルがあった。残りは五百くらいかな?
「んー。座って。たぶん、千秋兄達もうじきくるし」
グラスとボトルをテーブルに置いて一杯目は注いでおく。それから焼き魚をグリルからお皿に盛り付ける。
「はーい」
「芹香ー」
「なに?」
「こっちにいない間、何があったんだ?」
いい返事を聞いて、雑談のつもりで尋ねる。
「……。いろいろ、かなぁ」
「いろいろか」
「いろいろだわ」
思案げに揺れる声。ネタが多くて語れないのか、情報隠匿しておきたいのか。
「千秋兄がアメリカの方に顔出してたのは知ってるけどな」
「まぁね。わたしも短期帰省してたわよ?」
軽くドリンクを含んでからなんでもないことのように続ける。
「失敗したんだなぁと思ったから、距離もとってみたの。にーさんはわたしを優先するけどしないから。それに、そこは使っちゃダメなの」
ごめんねと言葉はない謝罪。
うまくいかないと瞳を揺らす芹香にきついことも言えず。
ただ、何かがあったらしいというもやつきがある。
「本当の家族じゃないから言えないとか他人扱いじゃねーんだろ?」
「当たりまえでしょ! それに、一番血縁として無関係な人間はわたしだもの」
マイナスに心が振れたのが分かる。
芹香はまだ小学生で、そんなふうに考えなくていいはずだと思うと気が重い。
「家族だろ。妹が妙な心配ばっかしてなくていーんだよ」
考えて、対処すべきは年長者の役割だと思う。
血の繋がり。
「芹香ものあも、妹だろ」
それは大事だけど大事じゃない。
『大切な家族』
俺にとってのソレは芹香や鎮にーちゃんたち、青空の家の人たちまでを含む。
だからこそ、空ねぇに鎮兄はふさわしくない。家族と思える相手には幸せでいて欲しくて、ツラい思いは少ない方がいいと思うから。
今の鎮兄に空ねぇは不安定感を補える必要な存在だとしても……、俺にはその苦労を空ねぇが味わうことは不当に感じるせいだ。
「ダメな兄貴たちを持つと下がしっかりしないとダメだのよねぇ」
否定的な心境に気がついているわけでもないだろうに芹香が呆れたような眼差しを俺に向け否定的に呟く。
「しみじみ言ってんじゃねぇよ」
もう少し、言葉を続けようとしたら声をかけられた。
「モーニン! セリーリューイ」
芹香と俺の名前を混ぜたような挨拶に俺は芹香と顔を見合わせる。
「モーニン。ジーク、ひとまとめにしないで」
「アサゴハーン」
「聞け!」
不満満タンの芹香の言葉を流しながらジークにーちゃんはテーブル上の食料に目を輝かせた。




