九月二十日 朝 木野江2
「きつく地雷ふんだんじゃねーだろうな」
健の言葉にフードをかぶりなおす。
「明確化はしなかったつもりだけど? どう判断したのかは鎮の自由だし、健みたいに過保護にする義理もないし、加減もわからないし」
小さく舌打ちされる。
「だれが過保護だ」
「たけ、る……」
ごんっと肘が頭部に置かれる。重いし痛いし、タバコくさい。
「嫌い、だよね。千秋。そう言っただけ。地雷っぽいのってそれくらい? って、いたい、いたい、痛いよ」
「おま、なに、変な情報操作してんだよっ」
?
情報操作?
「ただの事実だと思うよ? ああ、嫌いっていう単純な感情なのかもっと深くて暗いものかは知らないけど、あんなふうに嫌われてるのは少し千秋がかわいそうかな」
千秋は鎮が好きだしね。
「え?」
え?
「健? そのえって、ナニ? 嫌いだと思うんだよ。千秋のこと、鎮はさ。でも、自分で千秋を嫌ってることを認めようとはしないんだ。だから千秋のことも認めない。表面的には千秋も鎮のこと認めてないようにも見えるしね、ぱっと見お互い様」
千秋を認めて千秋のために動いて、千秋の望むことを叶えたがって、たぶん、鎮は千秋に認めてほしかっただけ。認められない状況がずっと続けば好きでいても同時に嫌いだと言う感情もあるんじゃないかな。鎮の場合、無自覚かもとは思うけど。
千秋はわがままで、自分だけを望む。『特別』でありたいと。
他と同じ注目は嫌う。思うままにならないことに拗ねてこじれる。『一番』好きであって欲しいけど、鎮の示すそれがそう見えなくて。
そしてその状況を維持することを選んだのは鎮だと思う。
ぶつかり合うという成長の階段を飛ばした感じ?
「鎮はいつまで木野江って呼ぶのかなー。健だって有坂だしー。陽光にーさんの方が先に下の名前で呼ばれてる感じだしさー」
ごねてると健がため息を吐く。
「ガキかよ」
「んー、数少ない友人だと思いたい相手だから、ね」
拒否られ続けると傷つくんだよ。
「へんな揺さぶりかけたら揉めるかも知れねーだろ? 続いたら」
ああ!
「千秋の愚痴がウザイんなら聞き流せば? 吐き出しておきたいだけだし、まともに聞くこともないと思うけ、ど? ……いたぃっ! 肘立てるの反対!」
なにを怒ってるの!?
「千秋ならほっといても切り替えて、斜めな見方に切り替えてるって! そのとき妙な誘導さえ入らなければ、たぶん、まともな判断下せる、かな?」
あ、自信なくなった。
千秋はあー見えて前向きだからなぁ。
ついでに行動力もある時があるから踏み間違えると暴走するね。よく一緒に怒られた。
それとなく鎮が暴走しすぎないように手綱握ってる気もするけど、相互影響力なんだろうなと思う。
「たけるー、間違ってるって思わないか?」
「お前の存在か!?」
ナニそれ酷い。
「それは間違いでもいいけどさー」
「いいのか!?」
どっちだよ。もう。
あ。
「言いたかったこと忘れた。きっとたいしたことない内容だったんだと思うから、いっ……かって、いーたーいー」
酷い。
「思い出せ」
理不尽だ。
「健は鎮と友達?」
「んナニ、馬鹿なこと聞いてんだよ。ダチに決まってだろ?」
じっと見上げる。
ため息。
「あいつがどー思ってるかなんてどーでもいいね。俺は物じゃねーから、あいつが勝手に俺は『千秋の物』だとか、思ってても俺には関係ないんだよ。俺にとっては、千秋も鎮も、逸……み……、いや、お前はおまけだオマケ!」
まぁ、オマケでいいけどさ。
「健はそうでいいと思うけどさ、割り切れないんだ。ああ、やっぱり面倒なことには関わりたくないなー」
「お前が一番、めんどいっツーの。あー、恭に文句つけらっれな」
うぜぇと小さくごちるのが聞こえる。
結局、悪ぶりつつも面倒見はいい方だ。
「そいえば、おかあさん、見つかった?」
「んー、トンズラしたままだぜ? ま、なにやらかしたかしらねーがてきとーに生きてんじゃね? 千鶴は日生んちにいりゃ大丈夫だろ」
連絡もねぇと言いながら新しいタバコに火をつける。
「ミホちゃん、健のこと好きなのに」
「俺も好きだぜー。ただし、愛だの恋だのじゃねーけどな」
どこまで本気かは知らない。
でもやっぱり健は過保護だ。




