九月二十日 朝 木野江
鎮は面倒見はいい方で、ぱっと見、やんちゃっぽい。
周りがうまく回っているといいなと思ってるように見える。
人助けは趣味のよう。
喜んでくれる表情が嬉しいというのは本気だと思う。
他人の困り顔、寂しそうな表情が苦手だから。
でも、自分が本当に欲しいものを知らない。
だから、知らないから、簡単に手放せる。
他に大切ができたら自分はいらないと普通に思える。
そこにあっても気がつけない。
気が付いている人がいないわけじゃない。
千秋の友達は、鎮にとって友達ではない。
あくまで、『千秋の友達』
そこから自分に心を手を、出してもらえるとは考えない。
ソレが意外と人を傷つけることを気がついてない。
嫌いだから。
迷うのも不安なのも。
確かに千秋の友達で鎮のことをわかっているかと言えば悩む。でも、千秋のそばにいる、影響力のある存在って気になるし目はいく。
関わりたくないから知っておきたい。
きっと、尋ねたら嫌がるんだろうなって思う。
ぐるぐるする。
視線を上げれば、緑の眼差しが意外と近かった。
一緒に道の端っこにしゃがんでるって、多分、ちょっと変。
動揺する。言いたいことがうまく処理できない。
きっとこれは少しばかりの近親憎悪。
「嫌いだよね。千秋」
脈絡薄くポンっと投げかけた言葉に鎮の目が見開かれた。
失敗したと思う。だから慌てる。
「好きも嫌いも、理由があることもないこともあるからしかたないよね」
取り繕う言葉に音は伴わない「しかたない」の復唱。
でも、コレは理由がない嫌いじゃないと思う。
「本当の感情は縛れないから。好きでそばにいて欲しいのは紬ちゃんだけ。他の女性は考えれない。でも、自分に何もないままは嫌だって思うのも止めれないんだ」
うん。まとまらない。
「理由なく嫌いってあるのかな」
疑問が提示される。鎮は『嫌い』って言葉が嫌い?
「突き詰めれば、理由はわかるかもだけど、納得できるかはわからないよ」
ただ、このケースは原因がわかりやすい範囲だと思うなぁ。
少し、沈んだ感じの鎮。
いい感情も悪い感情も人には必要で、あたりまえ。その度合いはそれぞれだけどさ。
千秋も扱いミスったって気にしてたけど、鎮の方も気にしてるんだなぁ。
「鎮がさ、誰かと本気で付き合うなんて思ってなかった」
「え?」
いや、だってさ。
ふわふわ女の子に愛想よく、ワンコしてたしさ。都合よく呼び出せる相手やってるの見てたらさ。
「てっきり、オネーさんたちの間を渡り歩くヒモでもやって過ごすのかと思ってた」
「はい!?」
「え。うん。鎮ならちゃんとそれで過ごせていけるんじゃないかな?」
驚いたと言わんばかりの反応に自信がないのかと思って褒めてみたら微妙な表情が返ってきた。
あれ?
言葉選びミス?
だってさ、健より安定生活できそうだよ?
「それ、どーかと思う」
不満そうな回答が返ってきた。
あれ?
気に入らない進路予想だった?
難しいな。
「うん。彼女と付き合うなら、ない進路だよね」
わかってる。わかってる。
「わかってねー気がする」
視線をそらしてボヤく鎮。
うん。わかってないと思うな。
フッと立ち上がるとワンコを撫でる。
「今度、そういっちゃんに聞いてみる。木野江、決めてるんなら、一回ダメって言われてるからって諦めないで、もっかいちゃんと伝えてみたらいいんじゃないかな?」
お約束のキレイごと。
舗装された道に散る影を見下ろす。
少し粘れば紬ちゃんは折れてくれる気がする。それは、……ダメなんだ。
「そのために、何かやり遂げれるという何かがいるんだー」
自分が何かできるっていう自信がいるんだ。理由のある「大丈夫」が必要んだ。
多分、鎮もそうなんだろうと思うんだけどな。
「受験は確かにそのためかもしれないけどさ。そこに向かう過程に意義があるかんじ?」
本当は卒業までやり遂げるのが一番だけど、高校生活ですら、結構キツイ感じだしなぁ。去年までは紬ちゃんもいたし、千秋もいたからマシだったけど。
「なんか、苦しいんだよね。ああ、もう動きたくないって感じでさ」
気合いだ。なんて精神論は受け付けないし。
甘えていると一二三ねーさんは言うけど、できないんだよ。どうして、平気でいられるのかが逆に理解できない。
「死にたいわけでもないし、できることをしたくないわけじゃない。居場所はある。ただ、わからない誰かと近距離にいることができないだけだけど、ひとつできないことが目立つとさ、何もできないんだって、思えないか?」




