九月二十日 朝 鎮2
「昨日、荒れてたらしいけど、大丈夫?」
フードを深めに被りながら木野江が聞いてくる。千秋情報だろうなー。
「うまくいかねーよな」
「……今は、少し、落ち着いてるんだ?」
「そ〜見えっか?」
「多少は」
「そっか」
「……」
ぶらり歩きつつ聞こえるのは靴音。時々風の音に紛れて何かを言おうとしては失敗する音が聞こえてくる。
「……木野江、話ってなに?」
歩きを止めてフードの奥から俺を見てくる視線。
「紬ちゃんの……コト。こーゆーの千秋には振れない気がしてさ。健にも、さ」
有坂はそういう相談向いてなさそうだし、千秋には気がひけるってとこ?
「連絡、特にとってないぜ?」
差し出されていた手を取らなかったのはどうして?
紬ちゃんは進学してからたしか、そういっちゃんの友達のりっちゃんと仲良くしはじめてた気がするからそういっちゃんに聞けばわかるかな? あとはやっぱり理沙さんか、麻衣子ちゃんとこのかおるさんかな?
「あ、う、うん。それで、恋人いるとかの噂とかって……」
紬ちゃんは優しくて控えめで木野江に寄り添うつもりで、それじゃダメだと決断させたのは木野江だと思うんだけど。
「んー。無かったと思うけど、かおるさんや梨沙さんに聞く、とか?」
「ひっ。や、やーめーてー。ソレ公開処刑だから!」
フードの端を持ってじたじたとしゃがみこむ木野江を見下ろす。
いや、悲鳴あげるほど、だったか?
「そうでもないと思うんだけどな」
もう木野江の想いの方はバレバレだし。というか、今更?
ようやく行動に移ったのねーと、生暖かく見守られるだけだと思う。
「受験、いけるとおもう?」
おずおずと問われる。
木野江は慣れない相手と関係を築くのが苦手な方だ。慣れない相手と会話するときは挙動不審な行動はザラだし。俺との会話中の挙動不審はマシな方。唐突なのも人のことは言えないから気にならない。
木野江が緊張することなく、本気で普通の対応ができるのは、家族と千秋と健、紬ちゃんくらい?
多分緊張状態で声かけられたりしたら、ずるずる挙動不審を引き摺りかねない気がする。
受験ともなれば、その時、落ち着かせてくれる紬ちゃんもそばにいなければ、千秋もいない。
「ああ、やっぱりダメだよね……。隼子ちゃんや小母さんたちは、大丈夫だからって言ってくれるんだけど」
なんて言ったらいいんだろう。
千秋は木野江がきつい性格をしてると言うけれど、俺はあまりそういうところにはあわないからなぁ。
木野江にとって受験は紬ちゃんとの仲を進めるステップのひとつに映ってるんだと思う。
「うまく、さ、いったとしても先、続けていけるのか?」
ずんっと、そこの空気が沈んだ気がした。
「……が、外部の音を遮断して、興味に集中すれば、多分、なんとか……」
もごもごとしゃがみこんで言い訳するように、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
それって、ダメってこと、かなぁ?
「自分に自信がないとさ、ひとつくらい、できることが、成果が、ほしいって思う。求められる、必要とされる何かを持ってないとさ、紬ちゃんに、たいして自分が相応しいって思えないから……。千秋は理解しようとしてくれるけど、千秋より、鎮の方が心境をわかってくれる気がしてさ」
俺は何も言えない。
「鎮、青空の空さんが、はじめて、少なくともうろなに来てはじめて『ほしい』って、自発的に思った相手でしょ?」
下を向いている木野江の表情は見えない。
「今さ、『好き』を持て余して酔ってる状況だよね? 大切はひとつできたら増えてくから、嬉しいも……こわいも」
「木野江……」
「千秋も鎮もできることは多いの知ってるけどさ、……鎮に手放したくない、大切ができたから、聞けるんだ。どうやったら、自信持ってさ、『そばにいて』って言っていいんだとおもえるとおもう?」
「わ、わかんねーよ」
まっすぐ、木野江を見ることができない。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より空ちゃんお名前ちらりお借りしました。




