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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014秋
637/823

九月二十日 朝 鎮

 ふわり笑う笑顔。まどろむぬくもり。

 蕩けるように優しい。


「愛してるわ。ぼうや」


 甘いささやき。降り注ぐキスとぎゅう。

 ふわり回されてはしゃぐ。

 ズルいとすねる小さいの。

 視線を向けると笑ってくれる。

 伸ばされる小さな手。

 ぱぁっと小さいのが笑う。

 ぱたぱたと動く手。

「もっと」

 せがむ舌ったらずな望み。

 わからなくて困ると小さいのから笑顔が消える。

 ぱたぱたと動く手。ままならず機嫌が悪くなっていく。

 うまく応えられない。わからない。

 小さな手が頬にあたる。

 それはペちりと当たるけれど、乱暴だけど、ぐるぐると動く。

 ちょっとベタつくちっちゃな手がねだるように動く。何をねだってるのかわからない。

 ただ、ぎゅっと寄ってくる小さいのを抱きしめて、おっきいのを探す。

 おっきいのはニコニコ笑って見ていてくれた。



 おっきいのは『まま』

 ちっさいのは『きゃす』

 細いおっきいのは『ぐらんま』


 ちっさいのはそばに誰かいないと泣き出す。

 手を伸ばしたらぎゅうとしがみついてくる。

 泣き止んで嬉しそうに笑うから。ぎゅうと抱きしめて撫でる。あったかい。





「あそこにお前の居場所はないよ」





 彼の声に目を覚ましたそこはいつもの白い僕の部屋。


 望む言葉を返す。

 望まれる役割を果たす。そうしたら、その瞬間は僕を見てくれる?

 僕じゃなくていい。代わりでいい。

 彼女の見ているのはここにいない自分の子供。

「ママ」

 苦しい彼女は見えてない。聞こえていない。

 僕は彼女の子供の身代わり。

「愛してるわ」

 囁かれるうわごと。

 愛されているのは、ここに来れない本物。

「ごめんね」

 伸ばされる手を抱く。

「ママ。だいすき」

 苦しいほどに抱きしめられる。

 求められてるのは、僕じゃない。


 わかってる。


 コレは過去をもとにしたただの夢。

 あたたかさはちっさいのじゃない。







 タオルケットを除けて、伸びをする。開けっ放しの窓からは夜の風。時計が示す時間は朝の五時。

「んにゅ」

 俺が動いたからか、隆維がもぞりと動く。ゼリーが期待の入った眼差しを俺に向けてくる。暑かったせいか途中でベッドから追い落とされていたけれど、大人しく足元で寝てたらしい。

 まだ眠る隆維をひと撫でして、ベッドから抜け出す。

 ぱたぱたと散歩を期待して尻尾を振るゼリー。芹香より距離をいくことを理解しているようで。今朝は動きたいらしい。

 昨夜は隆維にほぼ無理やり連行されてきたみたいだったからなぁ。


「行くか?」


 するっとゼリーが足元に擦り寄ってくる。隆維が寝てるからかちゃんとおとなしい。


 ぶらりと北の森の入り口あたりまで覗きに行く。そろそろ人が動きはじめる時間だけど、表にまで出てきてる人は少ない。だからしゃがみこんで写真を撮ったりしてみる。

 町はいろんな表情を持っている。

 帰り途中、木野江の入り婿のにーちゃんが玄関付近を掃き掃除中。

「おはよう。いー朝だな」

 ぐりぐりと撫でられてゼリーが軽く身をよじる。その逃げるはしから執拗に撫で続ける。

「おはようございます」

 言いつつ、ゼリーとにーちゃんの間に入って撫でくり妨害。手持ち無沙汰になった手をわきわきさせてじっと見てくる。意外と明るめの目の色だった。

「よし!」

 いきなり気合いを入れた様子につい驚かされる。

 こかされるかって勢いで撫でられた。唖然としてるうちに「よし気が済んだ! またな!」と解放された。

 何が、したかったんだ?

 撫でられた髪をかきあげる。特に梳かしたりはしないけど、あんまりだと思う。


 六時少し前に空におはようメール。


 今朝は天気がいい。


「鎮、時間いい?」

「木野江、えっと、ビーチの方、向かいながらでいいか?」

 逸美に声を掛けられるって、千秋ネタか、紬ちゃんネタかどっちだろう?


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

より空ちゃんお名前ちらりお借りしました。

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