九月二十日 朝 鎮
ふわり笑う笑顔。まどろむぬくもり。
蕩けるように優しい。
「愛してるわ。ぼうや」
甘いささやき。降り注ぐキスとぎゅう。
ふわり回されてはしゃぐ。
ズルいとすねる小さいの。
視線を向けると笑ってくれる。
伸ばされる小さな手。
ぱぁっと小さいのが笑う。
ぱたぱたと動く手。
「もっと」
せがむ舌ったらずな望み。
わからなくて困ると小さいのから笑顔が消える。
ぱたぱたと動く手。ままならず機嫌が悪くなっていく。
うまく応えられない。わからない。
小さな手が頬にあたる。
それはペちりと当たるけれど、乱暴だけど、ぐるぐると動く。
ちょっとベタつくちっちゃな手がねだるように動く。何をねだってるのかわからない。
ただ、ぎゅっと寄ってくる小さいのを抱きしめて、おっきいのを探す。
おっきいのはニコニコ笑って見ていてくれた。
おっきいのは『まま』
ちっさいのは『きゃす』
細いおっきいのは『ぐらんま』
ちっさいのはそばに誰かいないと泣き出す。
手を伸ばしたらぎゅうとしがみついてくる。
泣き止んで嬉しそうに笑うから。ぎゅうと抱きしめて撫でる。あったかい。
「あそこにお前の居場所はないよ」
彼の声に目を覚ましたそこはいつもの白い僕の部屋。
望む言葉を返す。
望まれる役割を果たす。そうしたら、その瞬間は僕を見てくれる?
僕じゃなくていい。代わりでいい。
彼女の見ているのはここにいない自分の子供。
「ママ」
苦しい彼女は見えてない。聞こえていない。
僕は彼女の子供の身代わり。
「愛してるわ」
囁かれるうわごと。
愛されているのは、ここに来れない本物。
「ごめんね」
伸ばされる手を抱く。
「ママ。だいすき」
苦しいほどに抱きしめられる。
求められてるのは、僕じゃない。
わかってる。
コレは過去をもとにしたただの夢。
あたたかさはちっさいのじゃない。
タオルケットを除けて、伸びをする。開けっ放しの窓からは夜の風。時計が示す時間は朝の五時。
「んにゅ」
俺が動いたからか、隆維がもぞりと動く。ゼリーが期待の入った眼差しを俺に向けてくる。暑かったせいか途中でベッドから追い落とされていたけれど、大人しく足元で寝てたらしい。
まだ眠る隆維をひと撫でして、ベッドから抜け出す。
ぱたぱたと散歩を期待して尻尾を振るゼリー。芹香より距離をいくことを理解しているようで。今朝は動きたいらしい。
昨夜は隆維にほぼ無理やり連行されてきたみたいだったからなぁ。
「行くか?」
するっとゼリーが足元に擦り寄ってくる。隆維が寝てるからかちゃんとおとなしい。
ぶらりと北の森の入り口あたりまで覗きに行く。そろそろ人が動きはじめる時間だけど、表にまで出てきてる人は少ない。だからしゃがみこんで写真を撮ったりしてみる。
町はいろんな表情を持っている。
帰り途中、木野江の入り婿のにーちゃんが玄関付近を掃き掃除中。
「おはよう。いー朝だな」
ぐりぐりと撫でられてゼリーが軽く身をよじる。その逃げるはしから執拗に撫で続ける。
「おはようございます」
言いつつ、ゼリーとにーちゃんの間に入って撫でくり妨害。手持ち無沙汰になった手をわきわきさせてじっと見てくる。意外と明るめの目の色だった。
「よし!」
いきなり気合いを入れた様子につい驚かされる。
こかされるかって勢いで撫でられた。唖然としてるうちに「よし気が済んだ! またな!」と解放された。
何が、したかったんだ?
撫でられた髪をかきあげる。特に梳かしたりはしないけど、あんまりだと思う。
六時少し前に空におはようメール。
今朝は天気がいい。
「鎮、時間いい?」
「木野江、えっと、ビーチの方、向かいながらでいいか?」
逸美に声を掛けられるって、千秋ネタか、紬ちゃんネタかどっちだろう?
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より空ちゃんお名前ちらりお借りしました。




