九月二十日 朝2
「じゃあさ、どうやったら、シズメはチアキに認めてもらうの?」
「え?」
「誰かに言われて、の行動ダメなのでしょ? チアキに言われて変えてもだから、ダメなのでしょ?」
ルーカスが言葉を選びながら言ってくる。早口になりそうなのを抑えているふうで。少し、感情的になってるのがわかる。
「じゃあ、ずっと、シズメはチアキに認めてもらえない? 好きって伝えても、特別って伝えても信じてもらえないの? ただ、いらないって示されるの? 『ウソ』って、ほんとうじゃないって、言われるの? シズメ、チアキにそんなにヒドイことしたの?」
ルーカスに詰め寄られて、たじろぐ。
ずっと、って?
嘘?
鎮はヒドイことをした?
僕じゃなくてもいいだけだ。
いらないなんて言ってない。
「チアキ、シズメのことゆるせないから、いない方がって、思ったから、それとも、……いらないって思っただけ?」
許せ、ない?
あれは八つ当たりだ。
当たり所がわからなくて鎮ならいい。とあたった。そのことに対して何も思っていなかったのは確かで、誰もそこを突きつけてはこなくて、ただ、鎮が受け入れるのが腹が立って、はじめて、鎮に『おまえが悪い』と突きつけられてカッとしてあの時期の思考は曖昧。
たぶん、あの時期の行動はできるだけ鎮がフォローしてくれてて、俺はそれが当たり前で、今、フォローするどころか追い詰めてる自分がいて。
何が、自分に足りていないのかがわからない。
「チアキ? 言い返せなきゃダメだよ? そばにいるのに、受け入れられなくて、何を変えたいの? っていわれちゃうよ。ねぇ、ジークもそう思わない?」
にゃぱりと明るく笑われる。
「うぁ?」
ジークがぱっとルービックキューブから弾かれたように顔を上げる。
「聞いてなかったー」
「きーてたきーてた。自己主張は大事で言い負かされたら意見を言う機会すら奪われるってことだろ!?」
責めるルーカスをかわすジーク。ふとドアの方を見る。
タイミングよくノック音、
「朝ごはん、準備できたそうです。隆維君があたたかいうちに食べに来てと呼んでます」
「ありがとう」
宗くんにお礼を言って資料書類をまとめようとしたら、
「アサゴハンー。チアキ、早くはやく!」
「え? 俺は……」
ジュース飲んだしと返そうとしたら、はしゃぐジークが聞きもせず、急きたてる。
「あさごはーん大事ー」
ルーカスまでが便乗する。お弁当を作ってもらったんじゃないのか?
苛立たしい。
ジークがチアキを引っ張っていく。
「面白い情報を引き出していただきありがとうございます」
ドアのところで立ち止まっていたキョーイチロが表面上は機嫌よく笑う。
「キョーイチロ」
「千秋さん、勘違いしてらっしゃるようなのでしばらく黙っていてくださいね。隆維さんも協力してくれるでしょう」
キョーイチロはくすくすと予言する。しめられたのであろうリューイに激しく同情する。
昨夜連絡を受けた後の悪態ぶりはそれほどに恐怖だった。車中だったし。
「ほんと、面倒です」
ひらり興味なさげに呟く。聞きながらキョーイチロの手を取ったボクの判断は正しかったのかと悩む。
「シズメ、終っていいもらっても生きてる」
齟齬に対応出来ず、生きることを放棄する事が許可(選択肢化)された場合、生存率が高いとは言えないという結果がある。
周囲は意外と簡単に「いいんだ」と死を選べる言葉を投げかけるから。そして、誰も気がつかない。気がつくものは少ない。
「そーですねー。タイミングもいろいろあったんだと思いますね。芹香さんもいますし、そこが抑止になってたんじゃないですか? 僕の鎮さん調教企画に思いっきり千秋さん排除が課題になりますね。どうやって切り離してやりましょうかねぇ」
遠くを見るように呟く。言葉は突き放すようで、すっごく楽しそう。結果を見るために手法を楽しげに選ぶ。いき過ぎれば生きにくいんじゃないかと思う。
「キョーイチロ」
「はい」
「ヒールみたい」
にっこりとさわやかに笑顔を向けられる。
「ありがとうございます。隆維さんが和食朝食作ってらっしゃいましたよ。白ご飯と焼き魚と乾燥野菜のお味噌汁です」
ぉお!
「みそすーぷ!」
オフクロノアジ!
あれ? 作り手ママじゃない?
オフクロってママ、だよね?
「お味噌汁はインスタントですよー」
日本の文化!




