九月十九日 夜 旧水族館 9
目の前でスマホでやたらとタップし続けてる隆維。
途中からノートPCも使うという両使い。時々頭を抱えて呻く。
変だ。
あ。潰れた。
「大丈夫か?」
聞けば睨まれた。まだ機嫌が悪い。粘着はどうかと思うぞ?
芹香は救済者・せっちゃんを駐車場まで見送りに行っている。で、鎮はアイスをまだ食べてないと言う隆維のためにフレンチトーストを作ってる。
フレンチトーストにアイスを添えてという形にして小腹も埋めるらしい。軽く甘い匂いを感じてうっとおしい。
「何、鎮兄の反応は……」
なんかやらかしたらしい。
ちなみに小声。
「んー、なんかさ、いきなり反応がおかしくなった時期があってさ、そこからはちょい改善してたんだけど、時々、客観的に見ると、不本意なんだけど、俺がトリガーになる発言をしちゃうらしくってさ、今日はちょっとまぁ、やらかして、そのままほっとくのは自宅管理と天秤にかけた時、どっちがやばいかって言うと、ね。出た後にわかちゃん、自傷ったみたいだしさ」
一応、怒らせたことだし、言い訳っておく。
あれ?
隆維や伯父さんたちが出かけてすぐの頃じゃなかったか?
「ふぅ~ん。その割には喧嘩再開だよな」
恨めしげに見上げられる。その叩くキーボードは何を打ち付けているんだろう?
「まぁ、感情の抑えが甘かったんだよ。気は散ってたけど、燻ってたからさ。あー、宗くんと恭くんには迷惑かけた日だよね」
しみじみ頷くしかない。
「原因は?」
「……俺も知りたい」
胡乱な眼差し。仕方なさげに吐かれる息がムカつく。
キッチンの方から芹香の声が聞こえる。
芹香は今日はもうアイスダメだろ。
戻ってこない芹香に隆維と目を合わせて笑う。「手伝う」と邪魔をするであろう芹香を鎮が諦めて受け入れている状況が想像できた。
「涼維、文句つけてきてねぇの?」
「んー。つけてはきてる」
言いつつ、キーボードを叩く。相手は涼維みたいだった。
「でも、むこうで知り合いを増やしたり、付き合いをうまく広げたりはしておくべきだし、こーゆー不満ネタも、交流の話題になればいいと思ってる」
見ていて少し思うのは、
「大丈夫か?」
涼維が置いていかれて怒るのもわかる。
でも、現状、涼維を必要としていたのは隆維だったはずだ。心細く、不安なのは隆維の方じゃないだろうかと思えるんだけどな。
「必要なことだから」
そう言って、少しだけ視線を下げる。
ベタベタ甘ったるい関係がある意味双子らしい双子が離れることも必要と言い切る違和感。
「隆維、千秋、できたから食えよー」
ん?
「ちょっ、俺も!?」
「言いたいのはさ。俺は空ねぇと鎮兄の付き合いに反対ってことかなぁ」
「は?」
隆維の言葉に俺はまじまじと発言者を見る。マジで言ってるみたいだった。つい、トーストをつつく手が止まる。あと、咥えたフォークを揺らすな。目障りだから。
空ねぇは確かに鎮を好きでそっと寄り添っていて、鎮も空ねぇには特別に意識を傾けてるって言うか、べた惚れ依存しすぎ状態だし。そんな両想いを反対って?
「鎮兄だけを見ればさ、空ねぇみたいにゆっくり支えてくれる相手っていいとは思うよ?」
じゃあなんで?
俺は首をかしげる。芹香も傾げてる。芹香は応援しているもんな。
「でもさー、空ねぇを考えた時、思うのはさ、なんで空ねぇがそんな困りそうな、難易度高そうな面倒な鎮兄に合わせて苦労やら何やらをしなきゃいけないわけってことー」
あー。
少しばかり見る中心を変えた時に浮かぶ疑問ってヤツかぁ。まぁ、
「もっと苦労せずに済む相手が見つかりそうってヤツかぁ」
「俺にとっては両方とも、にーちゃんだし、ねぇちゃんだし、その場合、ねぇちゃんの幸福が優先されて当然だろ」
女性優遇。わかんなくもないかな。
鎮じゃ、確かに苦労、かなぁ。
「まっ。基本的には反対ってだけでさ、なんか行動したりは特にする気ないし、俺も今日は疲れてるしー、にーちゃんたちもだろ?」
鎮と視線があって、苦笑が漏れる。今みたいな感情的思考の時に決断するのは危険、だし後回しの方がいいだろうな。この話はここまでか、そのタイミングで、「千秋兄!」芹香の声にそっちを見れば、いきなり頭突きだった。
……腹に、クる……。
「せ、芹香?」
「おいてけ池におばけなんかいないよね!?」
「はぁ?」
怪談ポイントだった気はするけど、バカバカしいネタだと一蹴してたなぁ。
「声を掛けられて振り返ったら、鋭い歯で噛みつかれるんだって」
ん?
鎮、それネタ混在してねぇ?
「きっと、鰐かなんかだよね!?」
いや、芹香! ワニの方がこわいから!
「役場が捕獲調査してたとか、話題があったなー。一匹だけだったのかな?」
「人喰いワニー!」
ギャーギャー騒ぎ出す芹香。ふらり俺から離れてクッションを殴りに行く。鎮も煽ってんじゃねぇ!
「ちゃんとトースト食べたら?」
眺めてたら隆維に促される。
「食事時間じゃねぇだろー」
「食ってる量で鎮兄が心配してんだろ」
「えー。食べてはいるけどな」
ああ、そう言えば、
「俺と彼女との仲も反対だった?」
「はぁ? 付き合ってもいなかったくせに何言ってんの」
生意気な隆維を軽く小突く。そのままぐりぐりの刑へ移行。
「何もしない反対って意味あんの?」
「ずっと、反対したいわけじゃない。どうしたいのかちゃんと考える時間は俺にもにーちゃんたちにもいるってことじゃね? 俺がするかもしれないことは、どっちにしろたいしたことじゃないよ」
胡乱な眼差しを隆維に送ると向こう側で鎮も胡乱な眼差しで隆維を見ていた。
にぃっと隆維が悪い笑み。するとしたらと前置きをして、
「ちょっと、青空のねーちゃんたちに話を振るぐらい。年長者で身近な意見も取り入れないとね」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
青空姉妹。
『人間どもに不幸を!』
http://book1.adouzi.eu.org/n7950bq/
鍋島サツキさん(存在のみ)
『うろな町』発展記録』
http://book1.adouzi.eu.org/n6456bq/
『カメ』回
『冬過ぎて、春来るらし』
http://book1.adouzi.eu.org/n7507bq/
『置行堀ひったくり事件』回・置いてけ池
『うろな町~僕らもここで暮らしてる~』
http://book1.adouzi.eu.org/n7914bq/
『捨てられたわて(ワニガメ) 』回
使わせていただきました。




