九月十九日 夜送り道③
「失敗、だったね」
スマホを触りながらそういっちゃんが言う。
空ねぇを送っていく鎮兄を見送りつつ、こぼされた言葉。多分、折り返し帰ってくるまでいてくれるんだと思う。
「ダメだよ。鎮先輩に家族のこと悪く言っちゃあ」
キッと睨んでも、そういっちゃんは視線をスマホに落としたまま。
「鎮先輩にとって、ジークさんもエルザさんも同列の家族、ん、どっちかっていうとあっちの方が家族なんじゃないかと思うよ?」
チラッと視線が上がる。
「多分、千秋先輩に対するより、家族。だから、そこに対する否定攻撃には反応がキツくなる。千秋先輩や芹香ちゃんを切り捨てることはないだろうけど、……執着してるとこはあるしね。でも、隆維君たちのことならいざとなればさ」
「わかってるよ!」
続けさせない。聞きたくない。
中に入れてないんだ。表面的にうまく振舞っているだけだ。だから切り捨てることができる位置にしかいられない。だからだから、中に入れてもらえる誰かが羨ましくもある。
でもそれが空ねぇや千秋兄ならまだいい。家族だから。そういっちゃんの場合、ひたすら観察分析して行動した結果だろうから認められる。
「悔しかったんでしょ?」
そういっちゃんの言葉にびくりとくる。
認識したくない。
どうしてって疑問符が飛ぶから。
「鎮先輩、空さんを彼に任せても大丈夫と認識してたからね」
聞きたくないのにそういっちゃんは続ける。
「千秋先輩や隆維君たちに同じように任せる事はないだろうし。知らない相手が自分以上に受け入れられていたら嫌だよね」
軽く睨んだくらいじゃそういっちゃんは気にした風もない。
断定の言葉が嫌だ。
イライラする。
帰った途端のわかちゃんの流血も、千秋兄・鎮兄の許容値を見誤っていたことにも、年長者に言われるがままに反論できていない自分に苛立ちが募る。
「そう言えば、隆維君たちの女性論から言えば、うちの妹達は遊び相手?」
あ。聞いてたんだ?
急に変わった話題に驚く。あの場所では一切突っ込んでこなかったし。芹香もいたからかな?
顔を上げれば視線が合わせられた。さっきまでと同じような興味の薄さのまま尋ねられる。さっきまでの話題は終わり。新しい話題に少し心が緩む。
遊び相手だなんて言えば、鈴音は静かに怒るだろう。そしてそれはきっと厄介だ。
「鈴音はちゃんと将来性も考えてるよ?」
天音は、涼維の気がひけるかと思ってそばに寄せたんだし。
あえて聞かれたから気がついたのかな?
俺は天音は『愛人・恋人』タイプに分類してる。天音には『妻・母』『生涯の伴侶』という姿を求めてはいない。あくまで割り切り可能な付き合いまでだと思う。そして、天音はそれを納得して受け入れることができるタイプだと思ってる。
と言うか、真剣になった男をあっさり切り捨てることができそうな印象。情が薄いんじゃないんだけどさ。
鈴音は付き合うんなら全力で向き合わないと許してくれない束縛タイプ。本気にならないお遊びを許容してくれるのは、あと五年くらいかなと思ったりもする。
「そぅ」
そういっちゃんの返しはそれだけ。
怒られる気はしていなかったけど、あんまりにも拍子抜けする軽い返答。こっちが心配になるくらい。
「ちゃんと大事にするけど?」
「ん。まぁ当人たちが選ぶことだから」
「隆維、帰るぞー」
空ねぇを送ってきた鎮兄が戻ってきた。このタイミングを計って話題を変えたのかもしれない。
「んー、まだ、機嫌悪いか?」
わしゃりと髪をかき混ぜられる。
「機嫌悪くねーよ」
「悪いじゃねーか」という失笑混じりの呟き。そういっちゃんに挨拶をして別れる。
「不安にさせて悪かったな。できるだけ気をつけるな」
柔らかな声でそんなふうに言われると頷くしかできなくなる。壁はある。それを望んだのは確かに俺たちで。それでも、近くにありたいんだと思う。
このままおいておけば、何もなかったかのように振舞えるし、そうすると思う。
家族の幸せってなんだろう。俺の幸せってなんだろう?
「俺、鎮兄が好きだから。家族で良かったと思ってる。文句つけんのと好きとか嫌いとかは別だから、そこは勘違いしてほしくねーから言っとく」
ぽんっと頭に手を置かれる。
「心配かけて悪かったな。ありがとうな」
謝られるよりずっといい。
でもね!
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
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空ちゃん、話題でお名前お借りしてます




