九月十九日 夜送り道②
心配そうな空。
まじ心配かけすぎだよなと思う。
言い負かして、反論できなくさせて、そのやり方はきっと空の心配をあおったんだと思う。
「年上らしくないって、呆れた?」
ゆるく横に振られる頭。
隆維がなにかに怒っているのか、苛立っているなとは思った。
絡む言葉がカンにさわった。
薄く感じた血臭。いなかったわかちゃん。普段から表には出てこないけど。なんかやらかしてたのかなとは思う。
碧は処理慣れしてるし、バート兄がいない間は、ジークが居座ってるし、今日はいなかったけど総督も、……三春さんも結構いてくれるし、まぁ、天音ちゃん達やお子様方を車で送り届けたあとは大概戻ってこないけど。
三春さんが居たんなら隆維も違ったかな?
「留守にしてたことにあんなに怒るとは思ってなかったなー。あ、わかちゃんっていうのはうろや旅館の逸美以上の引き篭もり。かろうじて仕事してたんだけどダメになったからって、うちに来てたんだ。実は夏中ウチで引きこもってた。元々がさ、生きてるのヤダって言って、死のうとするけど、生きてたいから死ねねーの。たまにパニクるとリスカしちゃったり、衝動的に飛び降りよーとしたりね。うまーく致命傷は避けてやるんだよね」
あと出来るだけ大阪のばーちゃんには怒られないようにしてたと思う。
『線路はうまくいけば一発かもしれないが、賠償金シャレにならないからやめろ』とか、超現実的に怒られるから。
「わかちゃんが本気で死にたいのかがあの頃の俺にはわからなくてさ、なんでそうしたいかもわかんなかったんだ。だから、真似してみたんだ」
今だってわかってないのかもしれない。ただ、ダメなことなんだとはわかってる。
「……まね?」
「そう。落ちたらどうなるのかって見下ろしてたから、一緒に乗り出してみたり、リスカ中の刃物を触ってみたり」
やってみて、そうしたいわかちゃんの事を知りたかった。
ふわっと感じた浮遊感、流れていく赤を見てるのは気持ちよく静かになれた。
わかちゃんが焦がれるのが分かった気がして、嬉しくて、わかちゃんを見たらわかちゃんは泣きそうだった。
「危ないって慌てるんだ。自分がそうしてたのにさ。わかちゃんがしないんなら俺もしないって約束してさ。でも、わかちゃんは約束を守れないんだ。わからなくなると静かになりたくてやっちゃうから。ん〜、今日、やっちゃってたんなら俺と千秋の喧嘩のせいかなぁ。タイミング悪かったなぁ」
心配そうに見上げてくる空を抱き締める。
「大丈夫。俺は空のだから。そーゆーことはしない。空といたいから」
空の匂い。ああ、自分の卑怯さが嫌になる。それは空にかける言葉じゃない。これはどちらかと言うと絡め取る罠のような気がして容易く束縛を強めようとする自分がいやだ。
空が俺からはなれないように。俺を忘れられないように。
「恭君が引っ張ってくれる方にうまくついていけたら、きっと、どうしたいのかわかるようになるかな? 空といたい。ダメなままじゃダメだとはわかってるんだ。空に負担をかけたくないのにさ、ただただ、今は迷惑しかかけてないんだ」
ぎゅっと抱き締めて髪にキスを落とす。
落ち着いたと思ったけど、やっぱり、俺はダメで、なんとかなると思ったんだけど、ダメな話だったのかなぁ。
やっぱり、俺はいちゃダメなのかなぁ。でも、空のそばがいいんだ。
でも、しあわせだなって俺が感じていていいのかなぁ。
「大丈夫だよ」って優しい空の声。空が居ていいって言ってくれるなら多分、いていいんだ。空だけが見えてるこの時間がスゴく甘い。本当はずっとそうがいい。抱きしめられて重なり聞こえる鼓動が心地いい。
「空が大好き。好きでいてくれて、振り回していてもそばにいてくれて、ありがとう」
ぱちりと瞬いて、ふわっとほころぶ花のように笑う空が愛おしいんだ。
「愛してる。……自分の感情に自信が持てない俺が言ってちゃ説得力ないかもだけどさ、空が愛おしいと思ってるんだ」
囁いてから少し気合いを入れる。
「うし! 対隆維戦、あると思うから、頑張ってくる。心配してたんだっていうのはわかってるんだしさ」
耳元に囁く。
「ヘタレたらなぐさめて」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
空ちゃんお借り中です




