九月十九日 夜送り道①
空ねぇを送る道。
そういっちゃんと俺も便乗。そういっちゃんは帰るだけだけどさ。
「鎮兄はさ、なかなか聞いてくんないし、納得してくんないんだよね!」
俺は空ねぇにまとわりついて鎮兄の問題点を空ねぇに告げる。
「隆維、俺への不満をどーして、俺の目の前で、俺へじゃなく空に言い募るんだよ」
横を歩く鎮兄が不満をあらわに突いてくる。だって、聞いてくんないじゃん。陰口は嫌だしさ。
「えー、一番効果的に伝えなきゃ時間もったいないしさー。空ねぇに言うのが効果的そうなんだからしかたねーよね」
鎮兄にはすごく届きにくい。俺に嫌われてる可能性があるって考えるくらい、届かない。
「そういっちゃんは歩きスマホしなーい。あぶねーだろ」
ほら、もう意識はそれている。空ねぇはちょっと困ったような表情は浮かべたけれど、鎮兄をやんわりな感じで見守っている。
んー、あのにーちゃんでいいの? と正直尋ねたいけど、黙っとく。
「止まってます。ちょっとメールがきてたので返信を。芹香ちゃんのゲームでのガイドを頼んだので制限時間等の注意事項の再確認中ですよ」
「え、えーっと、さんきゅ」
「いえ」
信頼できる年長者のガイド付きゲーム。いいことだと思う。でもさ、えい、こっちに意識をむけろ。
「でもさ、遅い時間になる前に鎮兄は、空ねぇを送るべきだと思うし、二人ともが遅くまでウチにいないのも良くねーと思うんだ」
千秋兄にも言ったけど、鎮兄にも言っておく。同じ、場所で言わない方がいいと思ったんだ。
「そうだな。ダメだったとは思ってる。でもな。ジークがいたし、エルザも来た。問題はないよ?」
認めたうえで問題がないと言われる。少し、むっとくる。
「部外者だろ。よその奴だ」
つい声がとげとげしくなったと思う。
少し考えるような沈黙の後、言葉を選ぶ鎮兄。
「隆維、エルザもジークも隆維にとっては不満な、よく知らない相手かもしれない」
「そうだよ」
普通に会う分はいい。でも家に入れるのは別。父さんがいれば、なんだかんだ言ってても気にならない。でも、今はいないんだ。
未婚女性の評判やその身を守るのは家の男の役目だろ?
ウチを仮宿としているにーちゃんたちじゃなくて、鎮兄と千秋兄の役目だと思う。
「でも、隆維はあの二人が『仕事』として『いた』のもわかってるんだろ?」
「一応」
そう言われれば、確かにそうで。ただ、これまでは彼らは必要以上接近してこなかった。それなのに今、距離が近い。
「優先は芹香だよ。ミラちゃんや碧はどうしても二の次、三の次と優先は低くなるけど、芹香は他が傷つくのを嫌うだろう?」
「ん」
それが芹香の美点で、難点だ。
「なら、その事態を引き起こさせないことがあの二人が為すべき仕事だから。あの二人はそれをちゃんとするよ? それに、碧も対応できるよね。千鶴ちゃんも。どちらかしかいなければキツイかもしれないけど、二人ともいた、よな? 千鶴ちゃんはいざとなれば有坂を呼ぶし、碧は信兄のトコの番号も、把握してる。長船君とも仲いいしね。わかちゃんのことは碧が慣れてるし」
「でも!」
ひとつづつをゆっくりと説明されても『安全』を言われても兄ちゃん達がいなかったのは確かで。問題としてみている部分をわかってもらえない。そこが、不安を落とすんだ。そして、それが負の連鎖を呼ぶ。
「ねぇ、隆維」
「なに?」
「まわりが隆維や涼維のために派遣してくれている護衛の人たちを信じてる?」
「そりゃ、ちゃんとしてくれてる」
そのために仕事をしてる。守ってもらってるのは知ってる。
「俺は、ジークやエルザ、他のメンバーも含めてちゃんと警護してくれていると信じてる。他の仕事も含むこともあるだろうけど、芹香を警護することが本分だから。本当にマズイことは起こらないんだよ」
考え方の差異で噛み合わない。
「だとしても、空ねぇの夜間連れ出しは良くねーと思うんだけど?」
そっちに対して物理的問題点は解決してるとしても、こっちはどう答えるんだよ?
「ん、それはわかってるし、言いたいことも一応、わかる。でもさ、空がそばにいると安心できるんだよ。俺は、うまく自己処理できてなくてさ、空が、いないとダメなんだ」
それって、堂々ダメ発言!?
空ねぇ、それでいいの!?
「俺は空のそばにいて、相応しいのかって聞かれたら、ダメだとわかってるって答える。でも、それでも、空を手放すつもりはないんだ。空がイヤって言っても逃したくないから」
言いつつ、ぎゅっと空ねぇを抱き込む。
唖然と言葉が止まる。思考が空回るってこういうこと?
「なっ」
「ん?」
なんで、ダメ発言から惚気にはしんだよっ!?
「何っ!? その惚気っ」
「ん~。うらやましい?」
嬉しそうに空ねぇに擦り寄ってるばあいなのかっ!?
「りゅーいが心配してるのはわかってる。でもさ、お互いに知ろうとしないルールを求めておいてそれを壊すのはどうして?」
柔らかな笑顔。不思議そうに告げられるそれは痛い真実。
お互いに過去を知らない。知られたくないから知りたくない。知ってることが正しいとも限らない。隠してることがあるのはお互いにわかってる。見えることだけが互いが与える情報。お互いにお互いの兄弟以外には軽い膜もある。それもわかってる。
差し伸べられる手は『同じ場所に住む』家族に対するもの。碧ちゃんもわかにーちゃんも俺や涼維も鎮兄の中では同列なのだと特別ではないと突きつけられる。
「……っん」
口ごもる。こういうことって、空ねぇに聞かせることでもそういっちゃんに聞かれてもいいことじゃないと思う。
「俺に関することなら、空が聞いててもいいから。それでも、言えない?」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
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