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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014秋
628/823

九月十九日 夜 旧水族館 6

 恭君とキャスが庇ってくれて怪我ひとつない空を見つつ、キャスに礼を言って空にむかう。紙鉄砲だったから押し倒した方で怪我をしかねなかったとは思うけど、咄嗟に庇ってくれたんだろうなとは思える。ただ空に触れる前に、隆維が声をあげて注意を引く。

 怒ってる理由はわかるけれど、必要のないこと。

 それより、髪が濡れてるのが気になった。

 余計、怒らせたけれど、千秋も気がつけば、放ってはおけないみたいだった。体調が改善しているといっても不安は残るから。

 そのあとキャスは恭君と志狼さんに拉致られていった。ちょっと心配。


 ただ、千秋が『ルーカスが』と呟いたから気がついたんだ。


 覚えてないんじゃないかって。どうして俺が覚えてるかも含めて流れてきた記憶に固まる。

 千秋が言っていた『正しくない』『間違っていると思う』という言葉。『眩しいわ。灯りを消して頂戴』と言った彼女の、キャスの母親の言葉。ミツルに突きつけられた『灯りを消すことの意味』固まって、どこか冷たい空気を感じる。

 ふっとぬくもりを感じる。滑らかな細い指先。

「鎮君」

 優しく甘い呼びかけの声。

「空。んー、口論する気はなかったんだけどさ」

 今日はこれ以上心配をかけたくなかったのになぁ。ちょっと反省。心配そうな表情が消えないから、ぎゅっと一回抱きしめる。空の体温にほっとする。うん。……大丈夫。

「空ねぇ~、鎮兄~、アイス選んでー」

 芹香のせかす声。遅い時間にあまり出歩かないのが出歩いたからかテンションが高い。

 屋内に戻ってから、芹香に「どれにする?」とせかされながらアイスを選んでいる隆維が「昼から何も食べてない~」と言うからアイスより食事が先と告げれば、ふてくされた。ごはんが食べられなくなったらダメだろう?

 チラッと千秋を見れば俺がやれとばかりに手を一振り。

 空に手伝ってと言って台所に連れ込む。そばにいて欲しかったから。



 俺は、あの時、スイッチを切ったんだ。

 他の人のように「愛してる。ごめんね」と告げる彼女に撫でられながら。「ありがとう」と笑う彼女の顔を覚えてた。

 それが、彼女に対する最後の記憶。

 調理に入る前にぎゅうぎゅう空を抱きしめて、耳元に囁く。

「空成分補充」

 耳、甘噛みしたら怒るかな? んー、自制。

「大丈夫?」

「わかんねぇ。でも、しくった感じー」

 心配そうな表情なのにどこか恥ずかしそうでそれを見れて嬉しい。

 それはそれで良いはずなのに不安に揺らぐ。

 キャスが、『ママ』に会えなくしたのは俺だから。

 空といれて、幸せ。この時間が好き。幸せでいいのかなぁと思うけど。

 たぶん、ルーカスはキャスだと思う。でも、キャスと呼んでたのは十何年も前で、キャスの記憶に残っているのかどうかもわからない。

「知らねぇ相手にいきなり愛称ぽいの呼ばれたら引くよなー」

「知ってる子なの?」

「うん。たぶん、ね」

 曖昧な答えに不思議そうな空。素早く唇を奪ってから少し距離を取る。

 シャッターを切れば、なお赤く頬を羞恥と照れに染める。

 独占。俺の。

「家族になりましょうって、キャスのママは言ってくれたんだよ。……一度、キャスのママには会ったけど、キャスにはその時以来かなぁ」

 ああ、でも。

「その話は通らなかったみたいでさ、だから、空に会えた。俺はきっとその方が嬉しいと思う」

 不安そうな顔をしないで。心配は今日たくさんかけたから。

「その時にその話通ってたら、俺、空だけじゃなく、千秋の事も知らないままだったかも知れないしさ。だから、きっと今がいいんだ」

 それとも、空には会えた?

 うーん。会えたかも?

 でも、今みたいな関係にはなれなかったんじゃないかなと思う。

 会えるだけじゃ嫌だと思う。

 やっぱり今でいい。

「空を捕まえていたいのにあんまり心配や迷惑ばっかかけてたら、罪悪感で逃げたくなるから。これ以上まだって思うとさ」

 空の一番がいい。

 守るのも愛されるのも傷つけるのも俺が一番でいたい。


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

空ちゃんお借りいたしました!

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