九月十九日 昼 浜辺にて
「冗談もほどほどにしてほしいんだけど?」
「問題はないな。本気だ」
向う側の意思優先の婚約話を聞いた息子の反応は予測内。
「タチ悪いな。柊子さんの治療法絡み?」
「アテはつけておかないとな」
「妻を売って、望むまま孫も売って、血の繋がりはないとは言え、息子もその為に利用すんのかよ」
まぁそんなところだなぁと思う。
「安上がりだと思うねぇ」
「最悪」
「んー。知らなかったか?」
答えは期待していなかったんだろう。舌打ちして視線を逸らす息子。
ふぅと煙を吐き出して人の少ない浜を見やる。
そー言えば、あの白兎のじょーちゃんは若センセのお気に入り絵描き先生だったっけなぁ。
ひよこどもも懐いてるって話だったなぁ。
未成年者には手が伸びんが、良い体だった。若さに似合わぬ熟れた果実。ゆわりと漂わせる空気は誘いかけるように拒絶する感覚があり、危うげ無垢。その色彩のせいやも知れないが実に目の保養だったと言える。あれは、成人しても鑑賞物かねぇ。
見かけたのは、若センセの結婚式とその翌日。
妙な爆音に様子を見に行けば、でかいのを含む若いのがわさわさしていた。きな臭い空気は噛まない方がいいとシグナルを発してる。青空の嬢ちゃんたちに厄介がふらない程度に様子を見るかとも考えたっけな。実に惜しいが虎の尾は踏むものではないだろう。
「俺は、実父のじーさんも、その姉貴だっていうあのばばぁも嫌いなんだよ!」
お、まだ囀ってたか。
「知ってるぞ。そして、双方死者だな」
「あの世の役人に同情するね。そのばばぁの娘と? 親父よりあのばばぁは年上だったんだぞ!? つか、どさくさ紛れに殺すな! まだ残念ながらあのくそ実父は生きている!」
時間の問題な以上は実にささやかな問題だな。
あのばーさんは十年より前に死んでるしな。当時で六十歳は超えてたはずだなぁ。
想定される『娘』は最低二十代後半からが妥当か。
「久喜様は気にしておられてなぁ。ご自身もあまり丈夫な方ではなかったから。遺伝したのではないかとなぁ」
孫の中でも柊子お嬢さんを可愛がっておられたからなぁ。
「治療法を模索しているところには優先的に続けてもらいたいものだからねぇ。資金提供や、可能な人的提供ぐらいはするさぁ。自己の関連者なら安いものだ」
それにそれほど無茶な売り払いっぷりはしていないつもりなんだけどねぇ。
公志郎も不満なさげだし、この息子にいたっても拒否権がないとは言っていないのだが?
「話にならない!」
随分、話はした気がするのだが?
「婚約の詳しい話は?」
聞いていかないのか?
「断るからいいんだよ!」
「ドライブに行くなら事故と駐禁には気をつけろよ」
「っかってる!」
ふぅっと煙草を咥えなおし、旧水族館の建物を見上げる。
今日はあの時の酒をあけちまうかー。
「そーとく、吸殻ポイ捨てはエヌジーよ!」
「ふははは。携帯灰皿は所持している!」
「シロちゃんはー? いたでしょ?」
「ドライブだなー」
「ちぇー。今日は鎮兄のデート日だからこっそり覗きに行くのに付き合ってもらおうかと思ってたのにー」
「宿題して遊んでろ」
「あ、べるべる達来るんだった。じゃね」
ランドセルを揺らして自宅に帰っていく少女。
志狼が彼女との話を断るのは間違ってはいない。別に踏み込む必要のない問題だ。
既に妹のように可愛がってる少女を放っておけるかは別、だろうがな。
やれ、この町にきてから子供たちと話す機会が増えたねぇ。
まぁ、翌日怒鳴り込まれて騒がしかった。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
青空姉妹(回想のみ)
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
清水渉先生(若センセ)
『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/
雪姫ちゃん、高馬さん
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/352/
『撤退中デス6ユキ(悪役企画)』
の様子を回想としてちらりお借りいたしました。




