九月十九日 夜 旧水族館 1
何が起こったのかなと思う。
鎮さんようやくなだめた感じなのに。
「やっと、落ち着いたと思ったのに」
言葉が宗一郎とハモる。
どうやら向こうも手間がかかってたらしい。面倒な兄弟。
「ソーイチロもツインなんだね〜。チアキとシズメとお揃いー」
じっと妙に軽い、おそらく同年代の外国人を見る。
視線が合えば、愛想のいい表情が胡散臭い。
「んと、キョーイチロっていったりする?」
恭一郎ですよ。
「ボク、シローとは仲がいいんだよー」
志狼が日本語教えたからちゃらんぽらんなのか。納得。
と言うか、意外なつながりだなぁと思う。あの駄犬なに喋ってるんだろう?
「叔父がお世話になってます。この付近でフラフラしてるので自由に呼び出してやって下さい」
宗一郎はちらっと僕が彼の相手をしているのを確認してから千秋さんと鎮さんの双方向性空回り、ほんと見事に会話が成り立ってませんね。をどう止めたものかと情報収集しつつ、タイミング測り中。空さんはキリンを抱きしめて困った表情。とりあえず、こちら側に回収済みです。
止めるには、ある程度発散及び情報収集は大事なんです。
空さんが止めなきゃと慌ててるのはわからないでもありませんが。
実は空回りの原因がわかりにくいんですよねー。
僕は宗一郎のことなら大概納得できるので空回りしませんよ?
おや?
「空さん」
軽く、引き寄せたタイミングで、耳を打つ軽い破裂音。
距離があったのでこちらまで来れなかった鎮さんのかわりにルーカスさんに庇われる形になった空さん。
引き寄せ気味でしたから、いい匂いプラス柔らかいですよね。はい。下は固くて痛いですけどね。役得ですかねー。
「ルーカスさん、重いんですが、あと、銃声とかじゃ有りませんから大丈夫ですよ?」
彼は日本人じゃ有りませんからね。
危険性認識が違うんでしょう。
「ソラおネーサンけがない?」
ルーカスさんがそろりと周囲を警戒しつつ、立ち上がり、空さんに手を差し伸べます。
なんでしょうか。違和感ですよー。
鎮さんは心配そうに寄ってきてましたが、あ、僕は睨まれました。理不尽です。気持ち遅かったのは危険確認でしたか?
これは、どっちに先に寄るか悩みましたね。
視界の端で、ゆらんと揺れるのは新聞紙で作った紙鉄砲。
「やっほー。空ねぇ、たっだいっまー。そして、にーちゃんたちには苦情を述べるからなっ」
「苦情?」
瞬間呼びかけかけて顔を見合わせ、鎮さんと千秋さんがハモります。
あ、空さん、僕に怪我はないので大丈夫ですよ。さらっと見た空さんも怪我はなさそうです。確認したことに気がついて大丈夫と笑ってくれますが、ええ、あっちが気になりますよね。とお互いに頷きます。鎮さんたちがどう対応するのかが気になるので、無音声会話ですよ。
ひょっこりと玄関から出て来て空回り口論を眺めながら折りあげた紙鉄砲を揺らすのは、父からの情報によれば隆維君の方でしょう。ちなみに、けっこう、怒ってるように見えるんですけどね。
「父さんもいないのに、にーちゃんたち、両方が夜間外出ってなに考えてんだってことだよ!」
あ。なるほど。
半年以上いる成人男性ランバートさんは定時制でお仕事ですし、情報によれば、若葉さんは精神状態に難有りの方ですし、しっかりしてても非常時連絡先を網羅するのは中学生男子碧君にはキツイし、隆維君、あんまり女性陣はカウント入れてないんですねぇ。母方のお国柄?
「えっと、俺が出たときは千秋もまだ出てなかったし」
「わかちゃんもジークもいただろ?」
あ、お二人ともわかってません。
鎮さんが言う千秋さんがまだ『いた』は、状況的に通じませんし、千秋さんが出したその二人にいたっては隆維君が出かける前にはいなかったお二人ですよ。
と言うか、こういう時は阿吽の呼吸ですねー。
「それに!」
隆維君からまだあるよーですよ。つーか、鎮さん完璧に意識が注意事項にむけられてませんよね?
「なんでこんな時間に空ねぇ連れ出してんだよ!」
あ、すみません。そこは僕のせいです。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より空ちゃんお借りいたしました。




