九月十九日 夜 鎮6
「空成分が枯渇する」
ぽつんと鎮さんが呟きます。
それが嫌なら回避しろと思う僕は間違ってはいないと思います。
だいたい、そこまで大切に思われていて、進めないと呟く贅沢さに気がついていないんだと思います。
ぎゅうぎゅうと人んちで彼女をはぐはぐしている鎮さん。
空さんは空さんで海外生活経験のせいか、恥ずかしいと言ってもどちらかといえば嬉し恥ずかし……ぽく、時々僕の視線に正気付いて小さく抵抗なさってますね。
面白いです。
どう、いじめましょうか?
「デートしている時に心配しすぎて空さん欠乏症ですか。……ぜひ、見てみたいですね。じゃあ、気が散らせるようにも兼ねてその間はバイトを紹介しますね?」
少しイヤそうな表情ですねー。
でもそこなら喜んで様子を録画してくれるんですよねー。きっと様子も嬉々として説明してくれる自信があります。
「罰ゲームですよ?」
忘れてませんか?
イヤじゃなきゃ意味がないんですよ?
だから、鎮さんから連絡が取れる状況なんてもっての他です。じゃあ、できない状況を作るしかないじゃないですか。
「ちゃんとピンハネしてデート資金にしますから頑張ってくださいね」
「資金提供まで!?」
今さら、驚いたフリをしないでほしいですね。ピンハネは通常運転です。
何気なく時計を見ればそれなりの時間。
「まぁ、ゆっくり考えていきましょう。空さんもいつでもメールくださいね。僕は明日登校する必要があるので、鎮さんのとこの駐車場を愛用してるせっちゃんに送ってもらえる話がついていますから、そろそろ出ますけど、鎮さんココの合鍵持ってますし、好きなタイミングでどうぞ」
そろそろ、学校から帰ってくる頃なんですよね。志狼に送ってもらうつもりはないし。
「あ、出る。学校なんだ?」
そう言って空さんに視線で合図してますね。音声会話以外にも会得済みですかー。絆ですよねー。
「雑用が多いんですよ。イベント前は色々とありますから」
出し物のダブりや予算配分超過させそうなとこへの対応とか色々と。自腹切ればいいだろうとか言い出す人が気を抜くと出てきますからね。
あとは完成度確認と使用エリア時間調整は大事です。けっこう本気で忙しくしてるんですよ。公志郎も反抗期ですし。
だから、空さん巻き込んだんですよね。手が回らないなら回る手を使いましょうと。
「ん、んー。ごめん」
……。
切れてイイですか?
人のした話の意図を理解してほしいですよね。きっちり理解したいとおっしゃるなら期待に応えましょうか。
「空さん、デート実行日いつにしましょうか?」
「え? えええ?」
「僕は謝罪は必要ないと言いました。それでも、謝罪するということは、罰ゲームを受けてみたいということですよね? 実行日は少し、後になりますが、楽しみましょうね。空さん」
鎮さんの驚いた声はスルーです。スルー。レッツ実演です。
僕にとっては僕がしたいお遊びの一環ですからね。水を差さないでほしいところですよ。
「え。ぁ」
展開が早かったのか戸惑う空さん。それでもきゅっとキリンのぬいぐるみを抱きしめて笑ってくれたので安心です。ちょっと、かたい気もしますが。
「えっと……、行きたいところを、考えておけばいいんだよね?」
不安そうなのでできるだけ笑顔で返します。
「ええ。落ち着いてからの土日祝日なら都合がつけられると思いますので。じゃあ、先に空さんを送ってから旧水族館行きます?」
車はそこだし、定時は終ったか、もうじきかって時間だろうし。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より空ちゃんお借りいたしました。




