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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014秋
617/823

九月十九日 夜 鎮3

 大丈夫? そう心配そうに見下ろしてくる眼差しにふわんと幸せになる。

 そのままぎゅっと抱きしめて、差し伸べてくれた指先をとらえてキスをする。

「大好き」

 困ったような身動ぎと少しの間。

 顔を真っ赤にしてこくんと頷く。握る指先が微かに震えている。

 その表情が見たくて覗き込むように見上げる。

 ちょっと恥ずかしそうに嫌がられるのも可愛くて仕方ない。

 不安が甘く融けてゆく。


「すみません。空さん、すこーし真面目なお話があるんですがいいでしょうか?」

 恭君の声にそういえば、いたなぁと思う。

 空の抵抗が強くなる。空も恭君いたの忘れてた? だといいなと思う。一緒だと嬉しい。

 何度か呼ばれてる。

 やっぱり、空に呼ばれるの好きだなぁと思う。



「え、あ、し、鎮君」

 呼び出しに応えて来てくれた空さんにべったりな鎮さん。

 これは言い出せないなと思う。

「鎮さんはほっといていいですよ。不満なら勝手に反論するでしょうから」

「で、でも」

 空さんが恥ずかしがるので、お茶とお茶菓子を出しながら視線を外す。

 チラッと見れば鎮さんが何を言い出すのかと伺っている空気だけがある。

 むかつくんですが?

 少しわざとらしく呼吸を整える。

 いわゆる、『ほら言うよ? 自分で言うんじゃないの?』という促しではある。

 言い難いのはわかりますけどね。

「雑談をしていて、すこし、鎮さんを落ち込ませてしまって。反動でべったりなのか、通常運転かはちょっとわかりませんが」

 通常運転とばかりに満足そうな鎮さんの表情は僕の精神衛生上の健康のために見ない。

「そんなことで呼んでしまって申し訳ありませんでした」

 気にしないでと言いながら、抱擁を解かない鎮さんをぽんぽん叩いて促しているけれど、そういう動きすら鎮さんの心をくすぐるらしく、解放する気配は皆無だ。

「鎮さん、ちゃんと言うべき、伝えたいと思うことは伝えないと、第三者から歪んだ情報が入ってこじれるんですよ?」

 ぎゅっと空さんを抱きしめる腕に力がこもったように見える。

「鎮君?」

 不思議そうな宥めるような空さんの声と動き。

「空が一番好き」

 ポンと赤くなる空さん。

 僕の心境は、そうじゃないでしょう?

 そんなことはわかってるんです。

「そーいう話してたんだ」

 まぁ、そうですが。

 そこで問題発生があったんですよね?

 言えるんなら席外しますよ?

 そこで終わったらバカにしますよ?

 へたれって。

 ……。

 ヘタレですか。

「そこでですね、空さんへの想いを聞いてたわけですが」

 一呼吸。

「気になったので僕が聞いたんです。どこまでの前提でお付き合いしてらっしゃるんですか。と」

 チラ見したら空さんは真っ赤で言葉に困惑しているようだった。

 鎮さん?

 空さんの変化を嬉しそうに見つめて抱きしめてますね。

 ムカつきますね。

 自分で語れ。

「答えは、ずっと一緒がいいと言うごちそうさまでしたけど。ただ、その中で伝えようとはして伝えれてないことがあると聞いて、つついてみたら、鎮さんは鎮さんですからね」

 ため息を吐き出すと空さんが妙にわかったような微苦笑を浮かべる。

 そうですか。

「空さんも大変ですね」

 純粋に尊敬します。

「それでも、将来を具体的に想像しないのが鎮さんなわけですよね。問題点と言うのは外野が当然そうだろうと想定しうる状況についてです」

「外野?」

 鎮さんが首を傾げる。

「年頃男女の外泊がどう見られるかということですよ」

「え? でも」

 鎮さんは不思議そう。空さんはわかってるのか恥ずかしげに鎮さんに顔をうずめてる。

「事実は大事じゃないです。人の性癖なんて想像するだけですからね。秘め事なわけですし。本当なら別にそこまでまだ考えてないのも普通だと思うんです。ただ、僕がミホさんとそーいうことを考えているというのもあって話を振っちゃったんですよ」

 話題展開状況を説明しているうちに自分から言おうとしてくださいよ。

「そこでですね、ちょっと見過ごし難い発言を自覚なく鎮さんがしてきたわけです」

「そこまで言う?」

「言われたくないなら、自分でちゃんと語ってください。貴方の知らないところですでに聞いてらっしゃるかもしれないんですからね?」

「えぇー?」

「席を外せば、その間に話せますか? 鎮さんあーぱーなので無理だと思ってるんですけど」

「き、恭君がヒドイ」

「酷くないです。酷いのは鎮さんの基準です。鎮さんの基準だと傷つけるつもりもなく、困惑させ、傷つけることは多いと思いますけど?」

 息を吐く。

「こんな感じにこじれてしまって。他の方が耳に囁くより本人がって思っているくせに、空さんのそばにいると空さんしか見えてないんですから」

 まったくもってムカつきます。

 空さんはわかってるのかそっと鎮さんの目を見ている。

「もぅ、言ったしぃ」

 ん?

 鎮さん、今なんて言いました?

 上目遣いとしてやったり笑顔はいりません。

「ちゃんと伝えた。伝え、れたと思う」

 スイマセン、今……僕、キレそうです。

 様子を見れば、空さんが鎮さんを気遣っている。

 そうですか。

 茶化してでしか報告が出来ない。……わけですよね。

 まぁ、この際、僕がちょっと恥をかいたといっても少しですし。ムカつきますが飲み込みましょう。

 見方によってはどこまでの行動が許されるのか、測っているんでしょうし。ただ、素直に放置するとはもちろん、約束しませんから!


「よかったですね。鎮さんにとって少し、気が楽になる出来事ですよね?」


 鎮さんはそれでもどこか不安げな色を少し揺らめかしてから空さんをぎゅうっと抱きしめる。

 僕の視線のやり場が困るんです。視線をそらすのは理解してくださいね。



『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

より空ちゃんお借りいたしました。

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