九月十九日 お迎え
エルザとわかれて千秋の通っている高校のソバで下校する生徒たちを見送る。
同じ年頃って言うには子供っぽく感じる。全体的に可愛い印象。
「ルーカス、なんでいるんだ?」
ちょっと驚いた様子の千秋が面白い。
「つーがくチアキをみにきたんだよ」
迷惑そうな表情がよぎる。
ちゃんと歓迎して欲しいなぁ。
「きょーざいしりょー、とどけにきたんだよ。ボクは、せつめーやく」
いらないんなら滞在期間遊んでるけど?
思いつつ、トランクを見せつける。
「送付じゃないんだ」
「せつめーいらないんならいいけど?」
ちょっとイラっとする。
「ハチガツぶり。オゲンキデスカ」
「ぁ、久しぶり元気そうで嬉しい。ちょっと驚きが先立った」
じっと見てると苦笑い。苦笑いじゃないよ。
「会えて嬉しいよ。来てくれてありがとう。もちろん、元気。オフィス行く?」
「せつめーはオフィスで?」
「ああ」
「じゃあ、ガイドよろしく」
笑いながら歩き出す。少し、人目を引いてたみたいだ。
「みんなさ、キュートだよね。ん、……カワイイ?」
「んー。うろなには美人とか可愛い子とか多いから。ま、個人的好みの傾向は有ると思うけどね」
高校の学舎から事務所はさほど遠くない。事務所の一室が滞在中のねぐら。
「チアキのステディーは?」
「残念ながら、付き合わないかって誘ってるんだけど、断られてるかなー」
遠くを見るようなチアキにボクはアイヅチを打ってみる。
「個人的好みの傾向ってヤツだね」
そうそうと頷く千秋。つやりと暗さを減らした赤毛がサラッと揺れている。
雑談と気持ち早めの行程。
「オツキアイのパターン、かわるんだからラッキーだね」
生活、人付き合い、両方かわることは確定。ネットの向こうの時差勝負の生活。こっちでの高校を卒業した後は実際に講義を受けに行かなきゃいけない講座もあるし。相手に理解があっても生活パターンに距離と時間ができることは事実になる。
「そう、なのかなぁ」
お付き合い程度を知らないボクにはわからないよ?
「ステイちゅーにチアキの棲んでるマチガイドよろしく。ニッポン楽しみ。きょーとやアキバにつれていけなんて言わないからさ」
「あー。南に海があるよ」
「おー。海はせーめーの母だねー。って、ヒガシにもなかったっけ? ボクだって地図ぐらいみてからきてるよ?」
ちょっと膨れて見せたら笑われた。
少しは、ほぐれてきたのかな?
なんてことのない会話。それでも後でデータにして、資料に変えるには充分で。
千秋の思考方向性次第で会わせていい研究者と会わせるべきでない研究者を判別していく。
こういうマッチングは時期が大事。
本人が意思確定をしているつもりでも周囲からの圧力と若さゆえの一途さ潔癖さでダメになるケースもあるし、柔軟性を上げたり、受け入れ力を高める順番がある。
父さんの作成資料によれば、千秋、ちょっと頑ななところあるっぽいし。
できれば、裏側情報は回避する方向性を父さんはすすめている。グリフィスは『どちらでもいい。無理のないように』とだけ言ってきた。
知りすぎること触れることの利益不利益の天秤はいつだって微妙。人の心は強くて弱い。
ボクの課題。
千秋を知ること。
千秋はまだ気がついていない。気が付いたらどう思うって、どう表現するんだろう?
それすら判断材料だけど、進みたい道の手助けをできればいいなとは思う。
「ルーカスも、『シー』に会いたいクチ?」
ふと、千秋が言う。
「そーでもないよ。ガーデンやホスピスでは会ってないし」
噂しか知らないんだよね。
『シー』はママの命の火を消した相手。
その名前は、お腹の奥に冷たい石を詰められたような重い気分を呼ぶ。




