九月の海。空ちゃんとの対話③
「泣かないで」
そう言ったのはどっちだろう?
空の瞳からこぼれ落ちる雫はキラキラとキレイだ。
ただ俺が言葉を紡ぐ間、空は黙って聞いてくれてた。
そばに触れていてくれたから、囁くような、聞き逃しそうな潮騒に紛れるような俺の声だったと思う。
ぽすんと感じる胸元にある空の重み。
大丈夫と囁かれてるようであたたかくて愛おしい。
体を起こそうか、このまま目を瞑るかで悩む。
「すっげーさ、面倒だと思う。空からいろいろ取り上げちゃうんじゃないかって思う。空なら得れたモノが遠くなるんじゃないかと思うんだ。俺はきっとそれを強いてしまう」
それでもワガママでもいいかなぁって思うんだ。
そばにいたい。抱き締めてキスして笑顔でいて欲しい。同じくらい困らせたい。
「空が、好きだよ。それとさ、空には嫌われたくないんだ。他の誰に嫌われて別にいいけど、空には、嫌われたくないんだ」
あたたかなぬくもり。夜空に星は見えない。
「……嫌いにならないよ」
潮騒に紛れて聞こえる空の声。
「誰も、鎮君のコトを嫌ってないよ」
困ったような怒ってるような拗ねた声が愛おしい。嬉しくてより味わうように瞼を閉ざす。
「空、空は、俺のだよね?」
呟いて、目を開ければ空の瞳と視線が絡む。
頷かれてホッとする。
羞恥を含んでぽつぽつと途切れ気味に告げられる言葉に安心して、同時に困惑する。
行為自体もアレだけど、それだけじゃなくて!
空は、空はさ、
「空はすっごくおかあさんになるの似合いそうだから。……きっと、俺とじゃその機会は遠いと思うんだ」
言ってて顔が赤くなってると思う。
「そーいう未来風景は思い浮かぶのに、きっと遠い。もしかしたら、そーいう未来を奪うのかもしれないって思うんだ。ずっと、ずっと一緒にいたいって思ってるってコトはさ。それに俺は自分が子供を愛せるか自信ないし」
できないと感じるのは弱いから。
つっかえそうになりながら告げる。
いつの間にか抱きとめられた頭。近さに心音が柔らかく聞こえる。必死に心を込めて告げられる空の言葉が降ってくる。
心音と重なる空の声は安堵を誘う。
こんなに困らせてる。
傷つけたくない。泣かせたくない。
でも、
そんな空も見たい。
そう思うと自嘲の笑いがこぼれる。
俺は卑怯でズルいんだ。
「そら」
呼びかけてその潤んだ瞳を見つめる。
涙の跡をキスで辿ろう。
逃がさない。
逃げたりしないのはわかってる。
それでも、不安なんだ。
居なくならないで。
そばに居て。
涙と汗。空の味。
「愛してる。きっと、誰よりも」
空を。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より青空空ちゃんお借りしております




