九月の海。空ちゃんとの対話①
どうしたのと見上げてくる眼差しにふわんと幸せになる。
そのままぎゅっと抱きしめてこめかみにキスを落として、耳元に囁く。
「大好き」
困ったような身動ぎと少しの間。
こくん頷かれる振動。
その表情が見たくて覗き込む。
ちょっと恥ずかしそうに嫌がられるのも可愛くて仕方ない。
夏の気配は減った夕方。
あっという間に陽は沈んでいく。
九月に入って夏の営業を終えた海の家のそば。空を抱き締めて、空の温もりに酔う。
言葉を紡ぎたいのか、ただこのままで流されたいのか悩む。
「鎮君?」
「んー。言いたいのか、まだ、言葉にしたくないのかわかんねーんだ。今は空が俺ので、俺が、空のなのが嬉しくて、それだけ感じてたいのかもー」
頬を染める空(暗くなって見え難いけど、熱を感じるからきっと赤い)を見ながら、抱擁を解くコトなく、砂浜に座る。
「俺の上なら服につく砂も少ないだろ?」
羞恥からか逃れようと身じろぐから、耳元に囁く。
「逃げないで」
言ってて、ズルイなって思う。
こう言えばきっと抵抗せずに身を任せてくれると考えている自分が嫌になる。
熱を帯びた潤んだ瞳。
「ズルイ」と動く唇。
空だってズルイ。
我慢できなくてキスを落とす。
柔らかくて甘い時間。
ああ。この時間を邪魔するようなものはやっぱりイラナイ。
なのに、この時間を壊さないためにもと、促された言葉を理解できてしまった。
わかりたくなんかない。
「空、聞いていい?」
不思議そうに見上げられ、こてりと頭が揺れる。
「なぁに?」
可愛すぎて見つめていたいのか、恥ずかしくて目をそらしたいのか迷う。見逃したくないから逸らさないけど。
ただ、もっと、抱き締めてキスをたくさん落としたい衝動を抑える。
「ミホちゃんと重ちゃんと、……なにか話した?」
ミホちゃんは行動パターンが謎だし、重ちゃんは今年の夏はうろなに帰って来てないはず。宇美ねぇが気にしてたから確かだろう。
多分、俺のコトで話せるとしたらこの二人で。
そりゃ、ミホちゃんが言うことはないと思っているけど、ぽろっとこぼすのはありそうで。
ちょっと不安。
でも空は不思議そうだった。
何かあるの? そう聞いて来そうな雰囲気で。
「俺から話したくて、他から聞いて欲しくない話。んで、俺も自分で言い出したくない話」
ピクンと空が微かに反応する。
かわいい。
密着してると反応がわかりやすいよね。
「嫉妬?」
ほんの少し拗ねた表情。逃がさない。
だから、抱擁を解く。
「すぐ、言いたくないからさ、すぐに言葉が流れて消えるんだ。空に触れてただ、このままに溺れたくなるんだ」
逃がさないために逃げていいよと腕を解く。
ズルいやり方。
空が逃げれないと思ってるズルい手段。
逃げるという選択肢があると示した上での解放。
ぱたりと砂浜に髪がつく。
仰向けで、空をのせた体勢で、両手を広げて空を見る。
逃げられるよ。すぐは追えないよ?
しない確信を持ちながら空の心を試してる俺はどこまでもずるくて、キタナイ。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より青空空ちゃんお借りしております




