完勝
『千秋にしゃべんな。ウザイって言われたー! 嫌われてるー』
まだ続いてる電話の声にスピーカーに切り替えて指定位置に置く。
わざわざ泣きの電話入れてきますか。
きっかけになる電話がかかってきた時は数日前のあの時も夕食準備中。
端末を置きっぱなしでスピーカー。話を聞いているとめんどくさいなというのが先立つ。
「邪魔したくないなら邪魔しなきゃいいじゃないですか?」
それより空さんと話し合ったのかと聞きたい。
『でも』とごねる様子は邪魔をしてちゃんと期待に応えないと、と間違った思いに駆られているのであろう事が容易に想像される。
面倒そうなため息を隠す気はない。
「僕も暇じゃないんですよ。そっちよりウチの始業式早いですし、学園祭と体育祭が立て続けですからね」
気弱げに返ってくる返事にもうひとつため息。
そうですか、そこまで期待に応えて邪魔はしたいんですね。
食事メンバーは僕と公志郎とまだ帰宅していない由継叔父さん。献立は焼き魚と雑穀ご飯と厚揚げと葉物の炒め物。汁物はタマネギとなめこの味噌汁。同時進行で明日の弁当に詰めるポテサラと鳥のから揚げの下準備。卵は明日焼くとして、公志郎の分には冷凍してるハンバーグでも入れてやればいいかな? 宗がいないと手を抜きたい部分だし。
「提案があります」
『提案~?』
「聞いている限り、千秋さんは鎮さんとの関係をできれば、相互理解にもっていき、かつ、妨害を入れてもらうことで自分の成長の糧にしたい。と、思ってらっしゃるようにも見受けられます」
てきとーな発言です。
あの人はツンデレMですからね。早い話が構って欲しいんですよ。ほら、「自分だけ見て」ってアレ。
感心したような反応が聞こえる。
「ですからね、鎮さんが好きな相手のことをどう好きか、理解してもらうために語ってみて、ついでにご自身が空さんのどういうところに惹かれているのか再確認してみてはいかがでしょう?」
他人のラブ話なんて基本ウザイですからね。それでも発言としては小綺麗にまとめてすすめてみた。
実行して冒頭の台詞に至ったらしい。
僕が贈る言葉は一つだ。
「完全勝利おめでとうございます」
というか、空さんにちゃんと言ったんですかと振ると、
『だって、空にどうしたのって見上げられると、こうぎゅっと抱きしめてふわふわして、……』
さて夕食準備完了。今日は焼き魚じゃなくて茄子の煮浸しときんぴらごぼう、鶏の照り焼き卵スープです。ご飯はサツマイモを追加した雑穀米を圧力鍋で炊飯です。由継叔父さんは残業だとかで今日は外食ですから二人分です。作る分量は無難に四人前。残りは小分けにして冷凍保存。お弁当具材も使い回し用も、非常時夜食もこの保存分で何とかなります。BGMは鎮さんによる空さんの可愛らしさや優しさについての愛語り。前よりちょっと饒舌になってる? 千秋さんに語ってるうちにここもここもと溢れてきて仕方ない? そーですか。
空さんにベタ惚れ……キスした時の反応とかは伏せておけと思います。アボカドですか。今度使ってみますか。ちょっと苦手な印象があるんですよね。
それにしても、重要な部分をチョイスすれば、説明したいコトは説明できてないってコトですよね?
「僕からメールで大まかな内容を糖衣にくるむことなく空さんにチクる。という結論でいいですか?」
ぴたりと空さんに対する惚気が止まる。キスして照れてる時はうつむきぎみになって長いまつ毛と照れ染まる耳が可愛いから見下ろす位置もいいって言うのはわかりましたから、と言う心境になる。
僕が空さんがどれほど鎮さんの承認欲求を満たしているか、それを知っても意味がないのです。
まさか、本人確認に『恋人のステキなことを語れ』なんて使うこともないと思われますし。
それにしても、この人絶対に自分から言えないと思う。
もう少し、厳しく動くべきだったか? 方向性指示をする存在としては認識されてるみたいだけど、詰めが甘いと確立する前に回避されそうだしな。
『が、頑張ってみる』
そう言葉を残して電話は切れた。
うん。
「無理でしょうね。……公志郎、ちゃんと手は洗ってきた? 夕食にしよう」
「恭にー」
「なんです?」
「足りねぇ。練習激しいんだよ」
公志郎がテーブルの上に並ぶ料理を見て告げる。
練習や事前準備が忙しくて僕は、逆に食欲がありません。
「仕方ないね」
まだ常温にしている最中の鍋の中身を皿に移す。
鶏の照り焼きがあるのにとも思うが、
「豚の揚げ煮ならある」
解凍の手間は省いて、差し出せば好評だった。
片栗粉と塩胡椒で揚げた豚肉をフルーツワインで煮込んであるもの。アルコールは加熱でとぶので問題なし。思うがまま太るがいい。
「鎮さんの電話ってなんだったの?」
「空さんにベタ惚れ惚気話」
それでも千秋さんに完勝であろうことは僕にとっても気持ちいい。
「相手を打ち負かすってやっぱり気持ちがイイね」
「オレ、高校はうろな行こうかなぁ。天音ちゃんも柊子いるし、椎野もそのままうろ高目指すつもりらしいし」
照り焼きを食べながらぽつんと公志郎が呟く。公志郎は天音さんと柊子さんに対しては過保護だから。
「椎野、ね。ほぼ一年、無視してきた相手と仲直りしたいとか?」
言えば黙る。椎野兄が天音さんの害になるかを気にしているんだろうとは思う。
うっすら向けられる視線はけんか腰。
「状況作ったのは恭にーだろ」
「まさか。椎野兄弟の弟の方が鈴音さんを虐めていたことに軽く構えて、鈴音さんを追い詰めた僕自身を友人の前で反省しただけだよ?」
実に心外だ。僕は心配してくれた友人達相手に自分の対処の悪さを反省し、そんな思いをするものが減ればいいと、キレイゴトでまとめただけだ。それに友人たちがどう動いたかなどは僕は知らない。
「学生会のメンバーにわざわざかよ」
「僕もメンバーだからね。そして学生会業務を共にこなす友人だと思ってるよ? そこで、椎野兄と友人付き合いを続けれなくなった、状況的に関わる事がなくなったのは公志郎の判断だろう?」
僕を責められても困るね。
関わっていたら、鈴音さんをある意味溺愛してるおじい様と父さんに切り捨てられてたかもだけどね。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より青空空ちゃん話題で。




