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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014夏
602/823

残夏の雑談 千秋と健

「吹っ切ったわけかぁ」

「まぁね。タバコに火つけたら蹴るからな?」

 陽の落ちたビーチ。ジークが嬉々として花火に火をつけて危険な遊びをしている。志狼さんがそれに水をぶっ掛けて、沈静化させている。けっこう波打ち際は騒がしい。渚ちゃんにべったりぎみの琉伊君は夜も遅いのにはしゃいでる。

「気にすんなよ」

「じゃあ、鍋島も一安心かね〜」

 健の口元でピコピコ動くのはプレッツェル。マァいいか?

 ん?

「なんでサツキさんの名前が出てくるんだ?」

 不愉快なんだけど。

「そりゃ、落ちつかねーお前が気になんだろ?」

 睨んだら心配だという内容が返ってくる。

 心配かけたのは悪かったかなぁ?

「余計な心配しなくてもいーのに」

 気にかけてもらったのは感謝すべきかもしれないし、色々と迷惑もかけてる自覚もないわけじゃない。

「ぁん? 俺じゃなくて鍋島が、だよ」

「はぁ? なに言ってんの?」

 思いもかけない単語に無条件で蹴りを入れたくなる。

 予測されてたのか、避けられる。

「ぁあ? 安心して成仏出来ねーだろ? 化けて出て欲しかったのかよ?」

 妙なことを言ったのは健のはずなのに俺を見て『なに言ってんのお前』という眼差しがうざい。


 息を吐き出す。

「ばっかじゃねーの? 頭大丈夫か? 生き物は死ねば終わりだぞ? 死んだ存在は何かを感じたりしねーんだよ。死んだらそれは肉の塊だし、それ自体に何か作用する力も、当然、意思力もあるわけないだろ?」

 つまり、死後心配するなんて感情作用が働くはずがない。

 ばかばかしいと思う。

 まさか、幽霊とか信じてるタイプだったのか?

「葬式行けね〜ぐらい落ち込んでたのに?」

「葬式は生きてる者のための切り替え儀式だろ? 心の整理をつけて、確かに終わりました。って言うさ。俺は俺のタイミングで整理をつけたかったんだよ。そばにいきたいぐらい他のことをどーでもいいって感じていられる時間はあの時点で終わってたんだから! サツキさんはさ、動かない場所にいるんだよ。誰にも影響を受けない。傷つけられない。そんな場所に。んー、だから、俺が勝手にサツキさんに縛られていたいとか思ってもそれは俺のメンタル影響で、俺の願望だしさ、その忘れられない特別感を誰かと共有するなんてありえないし、理解して欲しいとも思わない。……ただ、気に入らないことはもちろんあるけどね。でも、覚えていて懐かしむ人が少ないのがさ、俺は嬉しいんだよ。独占に近い錯覚をしてられるから」

 最初は戻ってきてくれるんならどんな形でもいいとも思ったけどさ、でも、俺はそれをきっと受け入れられない。生き返っても、ゴーストでも、それは俺のサツキさんじゃないんだ。

 別の場所で生きて再会するのとは違うんだよね。

 少しでも違うと感じたら俺はきっと耐えられない。俺の心はそこまで強くないよ。

 死者に縛られていたいとかバカらしいけどね。

 それでも、それを感じてるのは俺で、他の誰でもない俺だけの感情だから。


 サツキさんが好き。


 後悔してるよ?


 どうして一歩が踏み込めなかったのか。


 わかってる。


 嫌われたくなかったんだ。


 妙な告白をするハメになってムカつく。ぽかんとしてた有坂に蹴りが入る。

「つまんねーコト言わせんなよな」

「いや、お前の心配に掛けた俺の貴重な時間を返せ」

「はぁあ? それ、お前の勝手だろ?」


 サツキさんがどうして死ななければいけなかったのか、謎は多いはずなのに誰もなにも言わない。語らない。疑問は表に出ず沈黙の中。


 闇に葬られる。そんな言葉がしっくりくる。


 僕には知る力がない。


 手を伸ばしても届かない。そして時間がどんどん届かないものに変えていく。


 きっと、力を手に入れたとして、真実を知ったとして、その時どうするのか。

 きっと、そうきっと、なにもしないのだと思う。行動を起こす意味がない。

 時間が流れ、思い返すごとにもやつく謎の多い死因。

 いないコトを納得できないより、死因に納得がいっていない自分が酷く嫌だった。

『死』という衝撃に『喪われた』という事実に混乱を覚えていた時間が実は短かったのだと思う。

 それでも、俺はサツキさんが好きで。

 いなくてもサツキさんが好きで。

 イメージの中のサツキさんはのびのびとくるくると記憶を再生させる。

 いつか、色褪せる日が来るのかなぁとは思うけれど、今は想像もつかない。

 まだ、酔っていたいんだ。

 会えたコトを後悔しない。

 ともに時間を過ごせたコトを後悔しない。

 別れが決定したコトでも繰り返したい。それは嘘じゃない。

 本当は感じたくない。

 いなくなった結果の心の作用。


 味がわからない。


 俺にとってそれはサツキさんに結びついてたから、ホントはそのままで、良かったんだ。

 ホントは、なにも見たくなかったんだ。

 本当はきっとこの酔いが醒めないコトを望んでる。

 でも、大事なんだ。

 喪いたくないんだ。


「力が欲しいんだよね」

「はぁあ?」

「うるさいな。ただの独り言だよ」

 力が欲しい。

 知るコトのできる力が。

 力が欲しい。

 知ったコトを受け入れられる力が。

 力が欲しい。

 大切なモノを破壊されずに済む力が。

 力が欲しい。

 守りたいものに守られずに済む力が。


 鎮が、見てる気がした。

 伝えたのは、お互いの意思を持って動こうというコト。

 邪魔されてもいい。

 動いてくれないとわからない。

 理解すべきは、俺には鎮の望むコトも芹香の望みも伏せられる。

 伏せられたまま、失うような状況は嫌なんだ。

「鎮に邪魔していいって言ってみたけど、反応にっぶいんだよなー」

 ポキッと軽い音。

「あんま、いじめてやんなよ」

 ちょっと脱力ぎみの健の声。

 心外だ。

「いじめてるつもりはないよ」


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

チラッと渚ちゃんお名前


『人間どもに不幸を!』

http://book1.adouzi.eu.org/n7950bq/

鍋島サツキさん話題にお借りいたしました。



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