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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014夏
601/823

8/26 千秋の結論。



「むこう、どうだったんだー?」

 鎮の声。

 課題の資料に目を通しつつ、返す。

「涼維がお茶会に遊びに来てたよ。参加者に母方の親類がいたみたい。隆維はついで的な検査入院中らしくて、気分転換に連れ回されてたみたい」

「へぇ」

「長船君と碧が時々、メールくれてたのを喜んでたな。いるとこでは使用制限あったりするらしいけど」

「そっかぁ」

「マンディねぇさんは静養中。あと、ざらっと昔馴染みに会ってたのと教授とかとの顔合わせ」

 ため息が出そう。

「庭の研究者系の奴ら嫌い」

「千秋?」

「会いにくいし、クセ強いし、人をサンプルのひとつとしかみてない傾向強いし……」

 ああ、面倒だった。

「まぁ、いいんだけどさ」

 心配そうな鎮の眼差し。

「知っていくつもり。あそこもさ、俺にとって家で家族なんだと思う。ウザいし、嫌いだし。でも知らなきゃ壊せねぇし手を出せない。あいつらが俺や、お前に何を望んでるのかはまだわからない。わかってもその表面だけで深層に踏み込めるとは思わない踏み込みたいとも思わない。でも、俺が気に入らないと思うところを変えれるようになるんならいいと思う。……俺はさ、家族を守りたい。守られてるだけはイヤなんだ」

 鎮は大事だと思う。

 芹香も大事なんだ。

 あのバカを一人にしたくはない。

 今の僕には知識も対応力もない。実質守られているだけだ。

 鎮に、芹香に、伯父さんやバート兄さんに。

 年下のチビたちにまで気を使わせて守られていたという事実は自尊心を傷つける。

 庭で会った涼維は隆維を心配していたけれど、母方の従兄弟にかまわれて笑っていた。それに比べて俺に向ける眼差しは不安を含んで心配されてるのがわかった。

 だから、かな。

「心配されてたんだよなぁ。でもさ、面白くなかったんだ。いろいろさ。なんだって出来て、よっぽどのことをしたら怒られて、抱きしめられて、小さな弟の成長に遊んで」

 あねあにおい。家に勤めていた家政婦さんや庭師や警備の人。

 鎮は時々出かけたけど、基本的に一緒にいて、いつだって後ろからついてきた。

「それが全部、伯父さんが来たらなくなってさ。誰も僕より鎮に気をかけてた。どうしてこの国に来なくちゃいけないのかが僕にはわからなかったんだ。マンディねぇさんを泣かせてまでもうひとつの故郷を知る必要性がある意味がわからなかった。鎮は不満なかった?」

「不安はあったかなぁ」

 少し気がひけてるかのように居心地悪そうな表情。

「大阪のウチはよかったんだ。それでもさ、今思えば、僕と鎮を離しておいた方がいいって思われてたっぽいけどさ」

「千秋は走り回ってたものな」

 懐かしむように言われて気恥ずかしい。

 アメリカでは自宅学習で、学校に行くのははじめて。家には何人か同じ学校に通う家族がいて一人になることはなかった。

 はじめて鎮が渋ることを見たのはピアスをはずすこと。伯父さんが宥めすかして納得させてた気がする。

 家族のキスをからかわれたり奇異の眼差しを向けられるのがイヤだった。鎮がこれっぽちも気にしないでいるのがいつからか疎ましかった。

 新しい家族を受け入れて馴染もうとしている鎮に怒りを感じた。

 イヤだった。隆維や涼維。母親ぶろうとするルシエさんの愛情は俺を見ることはない上滑り。無邪気に伯父さんに擦り寄るみあとのあ。大阪で母代わりをしてくれたさーやちゃんはうろなに来なくってまた新しい関係を築かなきゃいけなかった。

 今度は守ってくれる者のいない環境で。

 中心が自分じゃなくなって拗ねてたんだろうなと今なら思う。

 あの時、伯父さんが救い上げたかったのは鎮。多分、僕はついで。

「悔しかったんだ」

「なにが?」

「かけっこも言葉をうまく覚えるのも全部、お前の方が上手だったから」

 きっと今だって適度に手を抜いてる。去年の夏に対人関係やら状況やらを一生懸命一人で何とかしようとしてぶっ潰れてたけど。

 その理由を知らなかった。

 そうでなければいけなかった理由を僕は知らなかったし、今だって推測に過ぎない。

 それでも、知らなかったことは後悔しない。過去は終わったことで向き合うべきは変えられるかも知れないこれからだ。

 終わったことを悔い悔やみ続けるなんてばかげてる。

「芹香がさ、かわいそーでさ。聞こえたら怒るんだろうけど」

 鎮の視線を感じつつ視線は向けない。

「だから、道を支えてやりたいと思ったんだ。たぶん、芹香は俺が嫌だと思ってることを嫌だと思ってる。酷い兄貴だと思う。だから芹香あいつは俺を関わらせたがらない。でも、俺の方が年上でさ、行動力も伸ばせるのは早いと思うんだ。だから、だからさ、鎮は俺のジャマをしていいよ? 嫌だと思うならジャマしていい。というか、むしろジャマしてよ。俺がいろいろ乗り越えられるように」

 一呼吸。

 本当はジャマなんかしてほしくない。

 一緒に変えていければいいと思う。

 こんな宣言すべきじゃないのもわかってる。

「俺はいつまでも守られているより守りたい。もちろん、俺が守りたいと思えるものを守りたいだけだからそれ以外はどうでもいいけどね」

 チラッと視線を向ければ小さく笑われた。

「ジャマなんかしねぇよ」

「そう? 教授達に会い難かった一部はお前の影響だろ? レックスもジークも吐かなかったけどなー」

 何か言われる前に口を開く。

「謝るなよ? 俺も謝らないし、お前も謝る事はないだろ? 俺は守りたいものを守りたい。お前だって守りたいと思ったものを守りたい。一緒だろ?」

 困った表情。

 なんかおかしい。

「ばかみてぇ」

 言葉はハモる。

 とっくに集中できなくなってる参考書を横において鎮に手を伸ばす。

 鎮の手が差し出した手を掠めて俺の髪を引く。

 手を取り合うシーンじゃね?

「ガッコで言われたらどうすんの?」

「ん~、黒染めも考えたけど、よく考えたらもう内申とか気にする必要がないんだよねー。似合わない?」

 長船のおっちゃんにカラーリング維持の依頼した方がいいかなぁ?

 


 守りたいものを守れるようになりたい。


 

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