恭と鎮 夏の雑談時間 ⑥
恭視点。
内容は前回と重複となっております。
「ごめんなさい。聞くべきじゃなかったと思います」
空気が微妙。
わざとなのか、なんなのか、鎮さんの言葉遣いも。
「わかってくださればいいんですよ。僕は医者でも、カウンセラーでもないただの学生ですしね。お友達にちょっと親身な相談をされてる程度に考えてますよ?」
軽く流しておく。
「そっかー」
「バイト紹介して斡旋料出てますし」
「そこ!?」
「そこですよ。それだけとは言いませんけどね。そちらもたいがいだと思いますが、山辺も特殊な家ですからね。家長がどういった相手に仕えるかを決めればそれに引き摺られます。情報は多彩に必要ですよね」
会話から想定されることって重要だったりします。
「仕えるって」
「今時かもしれませんけれど、僕らの家系はそれこそが快楽と刷り込まれてますね。反発を覚えるより流れるのが生きやすいですし。どうして説明するのか? 宗はあなたがいいんですよ。祖父が久喜様に心酔したように。それでもあの子はやり方を知らない。僕はあの子を閉じ込めるつもりだったから。ああ、怖い顔しないでください。今はそんなつもりはありませんから。……家長はあの子ですし」
閉じ込めて好きに扱って誰も反応しなくなるはずだった。宗が僕から離れてるのは一時期の予定だったから。
やりたいことはなかったから家の方針に馴染めた。
宗だけが愛しかった。
他の弟妹は道具としか見えなくて、粗雑に扱ったつもりもなかったけれど、逆らわない妹たちを使うのに疑問はなかった。
「恭君はそれでいいの?」
「問題は感じません。宗が楽しそうならいいかなと思います。ですから、鎮さんにも幸せでいてもらわないと困るんですよ。僕が自由で入れる時間が目減りします。あ。画策暗躍は楽しいのでやりますよ?」
宗が楽しそうだから。
主人を決めるってどうなのか僕にはよくわからないけど……。
「かくさく」
「今のこの会話だって暗躍の範囲でしょう? ですから、情報の開示は求めません。知りえた情報や、想定される思考も開示しません。僕は僕が良いように動き発言します。まだ思考が幼いんでしょうね。『あなたのため』だなんて偽善は言うにしろ言われるにしろ、虫唾が走るほど嫌いです。鎮さんは誰かのために手を差し伸べますか?」
「手を差し伸べるのはそうすべきでもし、力になれたなら俺が嬉しいからだよ?」
どこか不安そうに確信などないかのようにキレイゴトキレイゴト。
笑ってくれるのが嬉しい? 喜んでくれるのが嬉しい?
それが誰でもない相手でも? そして差し伸べられる手には見てみぬフリ。
本意にたどり着かない。檻を構築する部品が足りない。
「さて、話を戻しましょう」
檻を作りましょう。
「え?」
「落ち着いたでしょう?」
まずはあなたが立てる檻を。
「え?」
「ですから、空さんとのお付き合いに対する前提と、開示していく情報の重さのバランスですよ。内容によっては万が一他の女性から囁かれて不安を煽られる、なんて状況がありうる……な……、鎮さん、その、『あ』って言い出しそうな表情はなんです?」
檻を開けるための情報をください。
「えっと、その」
「女性問題多いですね。空さんストレスはんぱないかもですね」
苛立たしい。
「え? やっぱメアドとか削除ったほうがいいのかな?」
「極論に走ると困る人は多いですよ。それより今は、他の女性が知っていて空さんが知らない情報が問題です。内容によりますが……さっさと空さんに告白しとくことをオススメします」
苛立ちを静める。調整者がいたんじゃないかと思う。意識的にしろ、無意識にしろ、普通に近く振舞えるよう調整をかけていた存在が。僕ではまだ、そこまで深く踏み込める時機じゃない。
それなのに、どうしてこう危なっかしいラインをこの人はふらふらしているのか。
時間が足りない。
接触が足りない。
信頼・信用を築くのにまだ足りない物ばかり。
「どうやったら伝えられるかなぁ」
「抱きしめて、押し倒して、愛を囁いて、気分をほぐしてから告白?」
投げやりに提案したら、吼え声が返ってきた。
「出来ねーから今にいたってんだよっ!」
えっと、ヘタレ、ですね。
「抱きしめたりキスしたりはけっこうしているんですから、あと一歩進むだけでしょう? というか、本当にお二人の関係ってどこまでいってるんです? 付き合って、抱き合ってキスして、一晩共にすごす事もあって清い関係って言って誰が信じるんですか?」
ものすごくそんな気はしますが!
ものすごく不自然です。
捨てられた子犬みたいな上目遣いしない! 気まずげに媚びないでください。
「そんなことしてねーもん。キスして抱きしめて一緒にいて、それだけでいーじゃん」
それだけでって。
「なんでさぁ……、そんな気持ち悪いこと空にしなきゃいけないんだよ」
は?
きもちわるい?
透けて見えた感情は嫌悪。困惑ではなくはっきりした外に向けられる感情は嫌悪。
「気持ち悪い、ですか?」
失言したとばかりに鎮さんは口を噤む。
そういう行為を『罪』。と刷り込むのも手法の一つ。それでも、行為自体に嫌悪を抱く教育をしていたと考えるには鎮さんは接触を好む。
「きもちわりぃじゃん」
そっとクッションに顔を埋めないでください。
ついでにそーゆー行為を気持ちいいと認識してる僕に同意を求めないでください。
「それ、ちゃんと空さんと話し合いましょうね。ずっと一緒がいいならなおさらです」
このまま落ち込むんなら空さんに引き取り依頼メールしますよ?
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
青空空ちゃん話題でお借りしております。




