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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014夏
599/823

恭と鎮 夏の雑談時間 ⑤

 ちら見すればそれとなく視線を外してくれている恭君は自分で評するほど優しくないことはないんだと思う。

「んー? 優しいとおもうけど?」

 少なくとも正直にぶつかってきてくれて『友達だ』と言ってくれているのは優しいと思う。あくまで俺の主観。そこでは優しいって思っててもいいよね?

「錯覚です。鎮さんにとって断定的な説明、こうせねばならないと言う促しを自分のものとして受け容れるのが楽だからに過ぎません。この対話は僕にとっても利益はありますが、ですが、ひっじょーに気に入らない行為なのも確かなんですよ」

 言葉を重ねる間ももらえず、否定される。利益はある。気に入らない。しかもひっじょーになんて言われれば俺はまた対処に困る。

「き、気に入らないんだ……」

「自分で壊して自分が望む方向性に再構築依存崇拝させて飽きれば自分の邪魔にならないように捨てる。もしくはもっと使いよく調整して行く手法を身につけるための技術経験値にはなってますけどねぇ。でも、鎮さんを僕が壊したわけでもありませんし、初期調整をしたわけでもありませんし、僕に心酔することもないわけですし、あ。いりませんしね。つまり、他人のおもちゃのメンテしてるみたいな気分なんですよねぇ。どこか、つまらないんです」

 崇拝したいのは空だけです。依存していたい相手に空以上は思いつきません。

 あ。セシリアママが一応その枠? でももう死んでるし。

 つまんなくてごめんなさい。

 心酔も崇拝もないけど、信じられると思ってる。……ないと思うけど、空に手を出したら怒るよ?

「ごめんなさい。聞くべきじゃなかったと思います」

「わかってくださればいいんですよ。僕は医者でも、カウンセラーでもないただの学生ですしね。お友達にちょっと親身な相談をされてる程度に考えてますよ?」

 恭君はひらひら手を振ってから電気ポットのお湯を急須に注ぐ。

「そっかー」

 なんだか騙されてる気もするけど、お友達と言う響きにほっこりする。それに恭君はそういっちゃんに嫌われたくないんだ。その可能性は回避する。だから実質的な危害は与えてこない。何かをする気がないからこうやって二人で会ってくれる。そして際どいと本人が理解している話題を振ってくる。

「バイト紹介して斡旋料出てますし」

「そこ!?」

 金銭目当て?

 でも、紹介してもらって助かってるんだからお互い様だし。

「そこですよ。それだけとは言いませんけどね。そちらもたいがいだと思いますが、山辺うちも特殊な家ですからね。家長がどういった相手に仕えるかを決めればそれに引き摺られます。情報は多彩に必要ですよね」

 昨今情報の大切さは言われてるよね。産地偽装とか情報詐称多いから。

「仕えるって」

 やっぱりそーゆー空気だったんだなぁそういっちゃん。

「今時かもしれませんけれど、僕らの家系はそれこそが快楽と刷り込まれてますね。反発を覚えるより流れるのが生きやすいですし。どうして説明するのか? 宗はあなたがいいんですよ。祖父が久喜様に心酔したように。それでもあの子はやり方を知らない。僕はあの子を閉じ込めるつもりだったから。ああ、怖い顔しないでください。今はそんなつもりはありませんから。……家長はあの子ですし」

 うわー。快楽なんだ。総督の心酔ってあれだろ?


 死出の旅のお供をしたいくらいのアレ。


 そういっちゃんも類似傾向あるの?

 ちょっとイヤだなぁ。

「恭君はそれでいいの?」

「問題は感じません。宗が楽しそうならいいかなと思います。ですから、鎮さんにも幸せでいてもらわないと困るんですよ。僕が自由でいれる時間が目減りします。あ。画策暗躍は楽しいのでやりますよ?」

 そういっちゃんの話題では表情が甘くなる。ミホちゃんに対するのとは少し違う甘さ。

 そしてにぃっと、少し悪い笑顔。

「かくさく」

 暗躍スキーなんだね。恭君……。でも人のことを壊す作業は実際にはしてほしくないなぁ。

「今のこの会話だって暗躍の範囲でしょう? ですから、情報の開示は求めません。知りえた情報や、想定される思考も開示しません。僕は僕が良いように動き発言します。まだ思考が幼いんでしょうね。『あなたのため』だなんて偽善は言うにしろ言われるにしろ、虫唾が走るほど嫌いです。鎮さんは誰かのために手を差し伸べますか?」

 開示してほしい気もするんだけど、それってこっちも話せって流れになるよね。

「手を差し伸べるのはそうすべきでもし、力になれたなら俺が嬉しいからだよ?」

 笑顔を向けてくれたら、俺に向けてでなかったとしても笑ってくれたら嬉しいんだ。ねぇ、やっぱり優しいと思うんだ。俺が気を使わずに受け入れやすいように切り捨てるような話し方をしてくれてるんじゃないかと思うから。もしそれが騙されてるって言うんなら、騙されていてもいいんじゃないかと思うんだ。

 キレイゴトも、偽善も実現できたなら素敵だと思うしね。

「さて、話を戻しましょう」

「え?」

 すとんと話を『戻す』という恭君についていけない。戻すってどこに?

「落ち着いたでしょう?」

 確認するように視線が合わせられる。

「え?」

 えっと?

 理解が遅いと思われたのか机の上をコツリと爪が打つ。

「ですから、空さんとのお付き合いに対する前提と、開示していく情報の重さのバランスですよ」

 ふんふんと聞く。バランスは大事だとは思うし。

「内容によっては万が一、他の女性から囁かれて不安を煽られる、なんて状況がありうる……な……」

 他の女性……。俺がダメな事はミホちゃん、重ちゃんが知っている。多分、有坂も察してる。ミホちゃんと有坂はなんだかんだいって言わない。他にも知ってるおねーさんはいるが空に届く情報源にはならない。問題は、空に対して時折り保護者質も示す重ちゃん。しかも俺はどっちかって言えば重ちゃんに嫌われているし。


「鎮さん、その、『あ』って言い出しそうな表情はなんです?」

「えっと、その」

 重ちゃんの動きは少し想定しにくい突発性が含まれる。重ちゃんの善意からの忠告で空に流れる可能性はある。多分、言うなら直接。でもあんまりうろなにいないし、ちゃんと空には言おうとしてたからそれまで言えれば……?

「女性問題多いですね。空さんストレスはんぱないかもですね」

 恭君が呆れたように呟く。女性問題というか、俺の性癖というか、トラウマというべき、かな?

 空、ストレスかなぁ?

「え? やっぱメアドとか削除ったほうがいいのかな?」

 反射的に少し違うんじゃないかという答えを口にする。

「極論に走ると困る人は多いですよ。それより今は、他の女性が知っていて空さんが知らない情報が問題です。内容によりますが……さっさと空さんに告白しとくことをオススメします」

 口に出して違う感はある。恭君も極論って言ってきた。メアド消すなら全部って伝えたら、バイトの連絡が出来なくなるからやめろと怒られた。それも、そう?

 まぁ、空にも止められてるしなー。

 空に伝える。重ちゃんが流す前に……。

 今までだって、何度か言おうと思ったんだ。

 でもさ、告げようとするたびに言葉が消えるんだ。

「どうやったら伝えられるかなぁ」

「抱きしめて、押し倒して、愛を囁いて、気分をほぐしてから告白?」

「出来ねーから今にいたってんだよっ!」

 ちくしょうっ。

 キスして、抱きしめて、好きって囁いて肝心なことなのに、どう告げていいのかが見つからないんだ。


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

青空空ちゃん話題でお借りしております。

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