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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014夏
597/823

恭と鎮 夏の雑談時間 ③

 進展って何!? 遊びのつもりなんかねーよ!?


「ない! ねーよ!! 別れるとかって考えたことないから!」

 ふと、思うことがあって言葉をつけたす。

「ちゃんと付き合ってるってわかってからは、さ」


 そう、確かに離れたほうがいいと思った。距離をとった方がいいと思った。

 俺はどこまでも自分が信用できないから。しかもそれは実証されててイヤになる。恭君はどこまで気がついて、何を基準にしている?

「空さんが好きな人が他にできました。疲れました。って言ってきたら?」


 下から覗き込むように囁く恭君の眼差しは心の裏を透かし見るかのようでいやな感じ。反面、どこか懐かしい眼差しは不快感と安心感が伴って混乱を波立たせる。


「い、言わねーもん。空はそんなこと言わねーよ。そりゃ、離れた方がいいのかなって思うことはあるけどさ。ヤダからできねーもん」

 キツイ想像に声が上ずる。言わなくて、そう、思われているかもしれない可能性?

 そんなことを伝えれば傷つくと思われて、そっと空の心に溜め込ませてる?


 傍にいたいと思うのは俺のわがまま?





 いや、空も一緒がいいって言ってくれる。


 多分、恭君が言いたいのはそれに甘えるなってことだろうな……。


「おーこーさーまーですかっ! 未来は不確定です。それにIFですよ。もしもは想定しておくべきですよ。涙目になっても同情しませんからね」

 そう言いつつお茶が差し出される。

 うん。水羊羹には日本茶の方がイイ。

 そうだよな、仮定、もしも。少なくとも可能性の、あること……。コツコツと爪で机を叩く音。お茶を一口含んで呼吸と気分を整える。

 切り替えると思えば心はすとんと落ちる。


 そう、空は大事。空が好き。そばにいたいんだ。空のそばに。


「ずっと一緒にいたいと思ってるよ。空は俺のだし、俺は、……空のだし」

 照れくささが上がってきて顔が熱い気がしてたまらない。

 あわあわしそうになりつつ、まだ熱いお茶をもう一口、口に含む。

 なぁ? けっこう恥ずかしいこと言ってないか?

 男があわあわしてもしかたねぇんだよ。アワアワして可愛いなぁって和めるのは空だからだし!

 落ち着け!

 帰ってこい冷静さ!


「……、幸せそうなのは結構ですが。つまり、結婚して死が二人を別つまで前提ですか」


 思いもかけない言葉に唖然とする。











「けっこ……ん?」











 恭君の表情が好奇心だけできいた言葉が思わぬ返しをされたと言わんばかりに胡乱なものに切り替わる。

「え。まさか、現状ずるずる不安定で続行ですか? 最低ですか?」

 叩きつけられた言葉は平坦な口調で一掬いの軽蔑が投入されている。

 あ。今日の旧水族館(うち)の晩飯豆腐料理にしよう。


「さっ……!?」


 最低!?


「だって、別れるつもりないんですよね。考えたことがない。と。……法的には親権者の許可があれば入籍可能年齢ですよ? 思わぬ授かりものは恋人で女性側の準備さえ出来てればありうるんですよ?」

 つらつらと続けられる言葉に視界がチラチラする。

 本当に、考えたことがなかったんだ。

 確かに条件的に法的にはそう、なんだろうけど結婚?


 結婚。花嫁さん。白いドレスとか透けるベール。


 ……。




 ひとしきりの動揺の横をぎる小梅センセの結婚式。海ねぇと高馬さん、信兄と宇美ねぇ。町長さんと秋原さんとかが浮かぶ。


 ふわり美しいウェディングな空を妄想。


 そう、結婚という言葉が似合うカップル。……澄先輩は、なんかまだ時機じゃなさげ? 潤さん、プロポーズ大作戦、うまくいってんのかな? 今度聞いとこう。

 よし、落ち着いた。反撃を少しぐらいはしないと、と恭君をしっかり見る。


「恭君。ミホちゃん相手にそこまで考えてるの?」


「もちろんです。たとえ、僕の子であろうが、他の相手の子だろうがミホさんの子供なら受け入れられる自信があります。もちろん、ミホさんがそばに居てくださるという条件がつきますが。ミホさんのウェディングドレスは素敵だと思いますしね。こう、そぅ……大変かもしれなくても、脱がすロマンが……」

 打てば響くように答えが返るってこういうことを言うんだろうかと思う。


 聞くんじゃなかった。


 ……そんな言葉よぎるぐらい静かに、迷いなく言う恭君は真剣に見える。そういうのって感情がついていかないケースも多いらしいけど、恭君には揺らぐかもしれないという仮定は想定外らしい。というか途中まで真剣にかっこいいと思ってたんだけどなぁ。

「き、恭君〜」

「赤くなるようなことでもないでしょう?」

 さらりと指摘される。不思議そうに当たり前に言う。千秋も有坂もそのあたりの基準がそっちよりだから、その方がいいんだろうとは思うけれど、どうしてもうまくあわせられない部分。

「そりゃ、空はどんな衣装でも綺麗だし、似合うし……」

 ミホちゃんの体型を考えても、うん。そう表現されるのは理解、できるよ?

 空で想像? 思いつかねーよ。ドレス姿で上目遣いとかで想像はストップする。

「あー。惚気は結構ですが、惚気るのなら最後まで、高校卒業したら同棲はじめて生活資金が問題なさそうなら入籍。おっきな式は無理でも空には白いウェディングドレスを着せてあげたくて、それから子供はできれば一人っ子じゃない方がいいかなぁ。反対されても空だけは守って一緒に居たいんだ。くらいまで惚気て下さいね。半端な惚気は潰れきれなくて対処に困ります。そして、呼び捨て失礼しました」

 続けて、一気に語られる『俺の』仮定の未来。


 ちょっとドキドキ。途中でああ駄目だと思う。

 憧れないわけじゃない。照れくさくてうれしハズカシ仮定ない未来こうけい

 すとんと気分が落ち込んでなんだか凹んでいるのがわかる。

「俺が、今、対処に困ってる」

「そーですか? 落ち着いて見えますよ。お子さん好きでしょう?」

「うん。ちっさい子って守ってあげなきゃって感じだし、可愛いと思う。……でも……」

「……女性はこわいですか?」

 静かな揺らぎのない声で言われると気分が悪い。

 記憶の中で意識表層によぎるのはそういうケースの資料写真。撃たれた死体なんて逃げた研究用生物サンプルしか見たことはない。音は近く、対象物は遠かった。生き物を傷つけるのは簡単。心に傷をつけるのも簡単。

 俺は生きてるだけでだれかを傷つける?

「……こわいってわけじゃ、ないと思う」

 怖い思いをするのは俺じゃない。恐怖を忘れられず抉られ続けるのは俺じゃない。ただ、俺がいるから怖さが消えないん……。

「噛みつきますしね。男は女性に口で勝てないですし、力でねじ伏せれば後で集団が来ますし、こわいと言っても間違いじゃないですよ?」

 少しずれているけれど、意識をそらせるかのように紡がれた恭君の言葉。

「……」

 返すべき言葉が浮かばない。ただ、気持ち悪い。

 こっちの不調がわからないかのように恭君は淡々と続ける。

「結婚が、前提なのか、そこは考えの外なのかで対処は変わると思います。結婚を考慮から外すとしても、その上で生涯共にありたいというのなら、そこを納得させなきゃいけないじゃないですか。女性に対する恐怖感の質によっては沈黙を守ることは不誠実ですね。いいですか? もしこう唆す僕を欠片でも、『優しい』なんて誤解してはいけませんからね」



『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

より青空空ちゃん海ちゃん


『うろな2代目業務日誌』

http://book1.adouzi.eu.org/n0460cb/ 

『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

より清水司先生(小梅センセ)高原直澄君


『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』

http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/

より高馬さん


『うろな町』発展記録』

http://book1.adouzi.eu.org/n6456bq/

より町長さんと秋原さん

それぞれ話題思考ネタとしてお名前をお借りいたしました。

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