恭と鎮 夏の雑談時間 ①
はじまりは七月の土曜日のどっか。
そういっちゃんのところに晩ごはん準備の仕込みに行った日。
出迎えてくれたのは恭君で。いつの間にか恭君と会話するこの時間も楽しみになっていた。
「アレ。恭君? そういっちゃんは?」
「いらっしゃい。鎮さん。宗はウチの集まりに呼び出されてますよ」
「恭君はいいの?」
時々あるみたいなウチの集まり。庭のお茶会みたいなもんかなって呟けば似た様なものですと返ってきた。
「ええ。僕が出る必要性はなくなった集まりですからね」
「ふぅん。有坂は?」
いつものようにリビングに案内される。
「学校でレポート未提出分作成のための勉強会(先生のボランティア付き)だそうですよ」
「自主参加かぁ。有坂、やる気出したんだ」
あーゆーのって強制ではなさそう。思ってると恭くんが説明してくれた。
「アスカさんって方がミホさんを誘って、ミホさんが健を誘って健はアスカさん目当てで出席のようですね」
テーブルに置かれる水羊羹。贈答用の処理ですと笑われる。
「飛鳥ちゃん頑張るなぁ」
単位取得と環境がなければ学校で習うような知識を自主的に集めるとは思えないと言っていたと思う。
「アイスティーでいいですか?」
「うん」
恭君とそういっちゃんの見分けはけっこう簡単。
ゆったりしていても動きに遊びが少ないほうが恭君だ。動きに、無駄という余裕が少ない恭君は多分、限界値がそういっちゃんより低い。
「それで紹介できるバイトは午前中三時間で五千円。後は能力給ですね」
「五千円かぁ」
「悪くないと思いますが?」
そう時々単発短期時間の調整のきくバイトを斡旋してくれる。場所もうろなから出ることが多いけれどたいがいが近場だ。
「どんなことすんのかなーって」
「身内のコネバイトなので内容は聞いてません。無茶は金額分だと思いますけどね」
「じゃ、とりあえずのっとくー」
今のところ無茶を要求されたことはない。
「では、連絡をしておきますね。僕も紹介料発生です」
「うわっ。お手軽稼ぎだ」
「がんばってくださいね。僕の臨時収入に直結です」
置かれたアイスティーと水羊羹を口にしながらのたわいない雑談。彼の持ってる『常識』を聞くのは楽しかった。
「待ってください。鎮さん」
「ん?」
「そんなこといきなり言ったんですか? それ、ドン引きして当然ですよ?」
話題は空のことだった。空が大事だから、空を優先したいと思って他の事なんて些細だよね。ということを話してた。他愛のない雑談のつもりで。それなのに、えっと、ドン、引き?
「え?」
「『え?』じゃありません。えっじゃ。空さんとどこまでの前提でとお付き合いをされてるのか知りませんが、惚気として聞くにはドン引き重過ぎ内容が含まれすぎです」
コンコンとテーブルに爪を打ちつけるさまは神経質そうな性質を示していると思う。恭君のイラついた時のクセだ。
「どこまでの前提って」
その単語がなんか気恥ずかしい。
「反応ポイントはそこですか? できればドン引き重過ぎに反応してください。しかも照れてないでください」
えー。だって照れくさいしー。
「んー。ダメだったのかなぁ?」
小さなため息。恭君が指を立てて言葉を紡ぐ。
「重いってことはですね、空さんへの負担です。空さんは恋人であって、……母親役じゃないんです。総てを受け容れることは重い苦痛すら伴うんです。無自覚に優しさに縋っていくばかりだと相手の心をすり減らすんですよ。もちろん、それがたまらなく好きという性癖の方もおられますが、空さんはそうじゃないでしょう?」
途中で視線を逸らして例外を説明してくれるがもちろん、空がその例外にハマるとは俺だって考えられない。
「うっ。うん……、それ良くない」
母親、おかあさん。そう、呼びかけた人たちの先を思い出す。思考が麻痺しそうになる。
「ありがとうございます」
その声に引き戻されて苦笑する。
「縋り過ぎかなぁ」
「それを決めるのがどこまでの前提でと聞いた根拠です」
立てた指先を振る姿を見ていると思ったよりもコミカルに思えてちょっと笑う。
「はい。先生」
少し沈黙。確認すればその表情は渋いというか、不満そう。これがわかるのはそういっちゃんを見てたからだなと思う。
「……先生になった覚えはありませんが?」
「いーじゃん。俺が楽だし」
不満げにしているけれど、不快ではないらしく小さな悪態ひとつで済ませてくれる。そー言うとこは少し可愛いなと思う。口にすれば怒りそうだから言わないけど。なんて考えてたから油断した。
「ですから、どこまで進展していて、どこまでのお付き合い予定なんですか? もし、空さんとの関係は一時的な遊びで別れる前提でと言われれば、ドン引きするかむしろ感心しますが」
は?
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
青空空ちゃん話題でお借りしております。




