美丘さんち
君はただひたすらに研究に明け暮れていた。
その君の補佐を極一時期勤め、君の望むままに入籍した。
望みの対価は娘だった。
忘れそうになるころに放り出すかのように君は娘を送ってよこした。
自身と上の娘の死亡報告と共に。
遺伝疾患を抱えた君は治療法を求めていた。
君が声をかけてきたのも、サンプルを求めてだった。
女系にだけ発症する病。ただし、危険素養と次世代への発症リスクは引き継がれる。
私の大学で受けた身体検査で陰性の素養を見つけたと彼女に迫られた。
君は発症したと笑う。
時間稼ぎをしつつ、研究を進めると笑う。
子供は代理母の子宮に宿る。
眉を顰めた私に君は不思議そうだった。
「彼女達は施しは望んでいないの。正当な仕事の対価として現状から抜けるコトを望むの。彼女達は誇り高いわ」
そう言って笑う。
代理母の少女は十代半ばだった。
「繰り返す子もいるけどね」
生活の面倒をみる一年の間に生活を変えうる教育を行うのだと君は語った。
明るく朗らか。何処か脅迫的な君の声。
彼女らを見る君の眼差しは嫉妬と羨望と母性の慈愛。
母になる彼女らすら君にとっては娘なのだろう。
君が世界から失われたなんて信じられなかった。
自身を使った人体実験すら辞さない君を確かに私は尊敬したのだ。
かえされた下の娘は上の娘からの臓器移植で元気だ。
言われるがままに定期的に血液と髪、爪のサンプルを提出する。
受け取り手はフローリア。
君の年の離れた妹だ。
不安に浸る私に君が寄り添う。
「美直。嫌な想いをさせているかい?」
「覚悟はしてたけれどね。愛菜ちゃんがお母さんか、ママって呼んでくれる日は遠いのかしら」
美直との付き合いは学生時代から。
マリナはそれを知った上で提案してきた。
私が愛するのは『美直』だけでいいと笑いながら。先の長くない自分に感情を寄せる必要はないのだと笑う。
私たちはお互いを利用した。
「愛菜ちゃんにお友達はいるみたいだけど、うまく付き合えてるのかが時々心配になるわ」
私たちの娘は常識が違う場所で育った。
私と美直はそれを理解しなくてはいけない。
それがあの子の個性でもあるのだから。
「赤毛君に弄ばれてるんじゃなきゃいいんだけど」
「美直、日生くんたちはそーゆーんじゃないと思うよ?」
突拍子なく感じられる発言に困惑する。だいいちどっちと仲が良いかわからないし、少し年下の妹と仲が良いという話だったと記憶してるのだがと呟けば、返ってくるケーベツの眼差し。
「愛菜ちゃん、思春期の少女よ?」
察しろと言わんばかりの声に首を傾げれば、ため息が返ってきた。




