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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014夏
589/823

七月末のどっか2

「ハぁイ!」

 弾けるように明るい声。

 黒髪、明るい黄色のワンピに白い花柄。黒のレース編みのカーディガン。

 視線が合えばヒールをもつれさせたような印象で抱きついてくる。

「シー、今日も元気〜?」

 酒臭かった。

「ミツル、酒臭い」

 ミツル・グラッシュ。芹香を『お姫様』と呼ぶ警備部の一員だ。もうひとりのミツルの部下として春から赴任してきた。年齢も近いしと千秋にもよくじゃれ付いてるらしい。

「んふふ。美味しかったヨー」

 胸を押し付けられて、首に手を回される。

 貪るようなキス。

「はぅ。美味しいお酒でショー」

「未成年の飲酒は禁じられてるっつーの」

「にゃはー。問題ないない。ただキスしただけ〜ん。おやすみのキスーってね!」

「今、朝。……あ!」

 オールかよ!

「あ?」

「空と朝デートなんだよ。しんじらんねぇ。酒臭さうつってね?」

「さーぁ。デート楽しんでねー。えーっと、バクハツシロありじゅー?」

 朗らかにもう一度(今度は軽く)キスをして別れる。

「朝帰りかよ〜。ミツルもエルザも芹香もいないからか、たるんでるな〜」

 護衛対象と上司がいなきゃハメも外すかと思う。

 小さくぼやき、視線を巡らせれば、迎えに来てくれていたのか、空が見えた。後姿。気がついてないのかな?


「そーら」


 後ろから抱き込んで髪にキスを落とす。

 本当はもっとちゃんとマーキングしたい。大好きが溢れる。

「迎えに来てくれたの?」

 いつも使う道だもんな。


 空気がどこか硬い?

「そら?」

 そっと覗き込んだ表情はなんだかかたくて、どこかで、ミス、ッた?

 静かに見つめられてどこか居心地が悪いような気分になる。

「俺、なんか、し……た?」

 傷つけた?

 駄目なことした?

 わかってない俺に空が頬を少し膨らます。

 怒らせた?

 なんかした?

 なんかしたんだよな。俺何したの?

 思考に嵌ってたせいか、空が「知らないっ」と告げて俺の腕から抜ける。

 追いかけていいのか、追いかけちゃ駄目なのかわからなくて少し、その後姿を見つめる。速度が変わらない。速度が変わらない……?


 信号が点滅する。






「空っ!」




 ギリギリのところでなんとか捉まえて強引に引き寄せた。


 クラクションの音が五月蝿い。


 息が詰まる。


 腕の中に確かにあるぬくもり。


「……よ、かった……間に、合った……」


 いないく、ならない。

 嫌ってもいいから、俺を見なくてもいいから。

 ぁ、距離。

 俺のそば、い、や?

 でも、まだ放したく……ない。



「ご、めん、なさい。鎮君……ありがとう」


 たどたどしく紡がれる言葉。

 ぽふりと俺にかかる体重。こう、してて。抱きしめてていいと言うように擦り寄られる感触。

 いいの、かな?

 いいん、だよな?



「もう……大丈夫だよ」


 空の声が耳を通って脳のどこかへ落ち込んでいく。

 すこし冷たくも感じる指先が頬に触れる。

 放さなきゃいけない。放したくない。そんな葛藤で動けない。


 ふわり。優しい空からのキス。


 俺はそばにいていい?


 ふっともう一度、感じるぬくもり。

 それは控えめないつもの空のキスより俺が空を困らせるキスに近いもの。

 『好き』という合図キスが嬉しくてキスを返す。

 小さく声をあげてもたれ、俯いてる空の耳が赤い。食んでいいかなぁ?

「空、可愛い」

 可愛すぎてしかたない。

 だから、我慢できない。

 少し高めの悲鳴が上がる。同時に非難なのか驚愕なのか、あげられた顔。その唇にキスを落とす。


 真っ赤になってせみの鳴き声に打ち消されそうな声で、「見ないで」と囁く姿がまた可愛くて見ないでいる。という望みは叶えられそうもなくて少し、困る。



 通り過ぎる車が怖かった。

 車のむこうで広がる悲鳴と赤い色。

 逝ってしまうものに手は届かない。


 事故未遂現場から羞恥で困惑する(激しいハグに朝の路上キスだし)空の手を引いて歩き出す。

 その空から感じるのはいつもと同じ優しい空気。

 ほっとする。


「そういえば、空。……なんで拗ねてたの?」

 できるだけ軽い言い方で聞いてみる。

「っ!」

 息をのんで、また恥ずかしそうに赤く俯く空。

 わからなくて不安にかられる。

 追求してはいけない?

 止められてないから聞く。わかんねーし。

 空は聞けば答えてくれる!

「ねぇ。そーら?」

 教えて。教えてくれなきゃわかんねー。

 空が告げた言葉が風と川の音にさらわれる。

 もっかい。と、顔を寄せてその瞳を見る。



「……っ、わ……私、は……空(私)は鎮君の、だよ……?」

「? うん」

 それでいいのなら嬉しい。まだ、俺の。

 潤んだ瞳で切なげに見上げられるとつい、もういいよって言いたくなるけど、聞きたいんだ。

「し、鎮くんは……私の、だよね……?」

「うん」

 空がそばにおいてくれるならずっと空のがいい。

 息を整えて言い難そうに、それでも紡いでくれる。胸元で自身を力づけるように握られた手がすっげー可愛い。

「……私の……、前では……」


 空の前では?


「ほ、他の……、女の人とは…………っ、し、しないで……ほしいなって、思ったの……っ!」

 なにを?

 いや、きっとこれはなにを、って聞き返しちゃいけないシーンだ!

 働け! 俺の思考力!




 『女の子にとってキスは特別』


 これか!?

 恭君もなんか引いてたし、これな、気がする。

 そー言えばさっきミツルが、……アレか?


 『一方通行な独占欲ははっきり言ってストーカーで困るけど、両想いなら束縛されたいわね』

 

 前にストーカー被害受けてたねーさん(現人妻)の言葉も一部ある?


 『自分だけを特別に扱って欲しい』


 これを望む女性ひとは多かった気がする。

 女性に限らず、どこかで望む思いな気もするし。



 あ。


「えーっと、空」

 恥ずかしげに俯いていた空がちらりと俺を見上げる。

「アドレスも全部消す?」

 空が驚いたように俺を見上げてきた。





『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

青空空ちゃんお借りいたしました。


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