7/24 戸津アニマルクリニックで
ゼリーが不満そうに鼻を鳴らす。
何度か予防注射を受けたので嫌いなのだ。信兄が機嫌良く検診している。
元気なんだけどさ。
「機嫌、悪い?」
そっと横で様子を見守ってる尋歌ちゃんに話題をふる。
「うん。毎月読んでると予定に組み込まれているのに、急に崩されるって困ります。先月号に告知もなかったんですもの」
その手には『月刊うろNOW!』の六月号。
どうやら今月号は発刊されなかったらしい。
「全国誌に移行して雑誌名変更になったらしいんですけど」
フゥと息を吐く尋歌ちゃん。
「じゃ、そっちに手を付けるの?」
「いいえ。残念ですけど、またこんな状況がないとも言えないし、気楽な余暇の過ごし方が一つ減っただけですね。目標に向けて行動してるさなかに必要以上に意識を割きたくはないです」
「三年生だしね」
「そうなんです。でも、信用って大事だと思うんです。告知ひとつで応援していけるのに。雑誌が変わってしまえば、一般的に単行本の装丁や形態も変わるし、また雑誌が変わって、新しいオマケ付きで出し直しとか、よくある話だし。単行本化がまだだったのが救いだけど、もし、出ていて買ってたらショックでした。だから、信用できません」
多分、結構好きだったんじゃないかと想定できる。
隆維たちの話ではあんまり、娯楽誌に縁はなかったらしいし。
『うろNOW!』だって、待合室用に置いてあったからパラ見はじめたらしい。
「まぁ会社の方針じゃ仕方ないんじゃない?」
「規模縮小ならわかります。でも、全国誌化は規模拡大だと思います。つまり、千秋さんは、告知の一文を入れるコトも怠った読者を蔑ろにする方針の味方なんですね? 見損ないました。がっかりです」
さらりと流そうとすると矛先がこっちを向いた。
「ネットサイトとかで告知してたかも?」
「全ての読者がそれをするわけじゃないですし、わざわざ紙媒体を選んでるんですよ? せめて、告知の一文は欲しいです。急な方針の転換だとしても配慮と計画性と読者継続獲得の意思が感じられません。つまり、『うろNOW!』の読者は切り捨てられたんです」
熱弁を奮うさまはちょっと意外。
「楽しみだった分、がっかりが大きいですね」
「復活したら嬉しい?」
「いいえ。しばらくは信用できませんから」
「あ、でも買ってあるんじゃ?」
雑誌コーナーにあの作家の誰かのイラストの雑誌が置いてあった気がする。
「ひいおじいさまが『町の会社が頑張っとるんだからな』とおっしゃって継続購読らしいです」
不満ありありでぼやく尋歌ちゃん。
「日常なんてひっくり返されるものだし、あの会社って即断ぽいから営業方針変更が本当に急に変わったのかもね」
『きゅうん』
「ゼリー!?」
飛びついてきた
きゅうきゅうと鼻を鳴らすゼリーを撫でながら信兄を見る。
「虫歯もなし」
口を無理に開けられたのが嫌だったらしく俺の後ろに回ってきゅうきゅうと小さく不満を訴えてる。結構サイズはあるけどまだ子供って感じがカワイイ。
「どっちにしろさ、それだけ急だったんなら社員さんや漫画家さんも大変かもね。上の決定に振り回されるのが部下だから」
ゼリーを撫でなだめながら尋歌ちゃんもなだめる。
せっかく夏休みがはじまるのにイラついてたらもったいないしね。
「きっと、受験に集中しろってコトだと思っておけばいいんじゃないかな?」
「千秋さんは受験は?」
「んー、進学はするよ。夏休みは半分くらい海外かなぁ」
「え?」
「お盆、ちょっと前からアリアと芹香連れて帰国。うろなには戻ってくるけどね」
「ゼリーの世話は?」
「さーやさんと碧と、ミラちゃんと若葉と、鎮がいるから大丈夫」
「随分と、むこうに行くんだな?」
割り込んできたのは信兄。
「んー。向こうにいる兄嫁さんが今、体調悪いらしくってさ、春休みより、よくなってるといいんだけど、それでも兄さんには仕事あるし、周りに人はいてもやっぱ兄さんとこの息子も不安は不安だろうしさ。ホントは、鎮も連れて行ったほうがいいのかなとは思うけど、今ちょっとまだごたついてるしね」
不思議そうに首が傾げられる。
「彩夏ちゃんは?」
「ん? 母さんなら今は地中海だったかな? 研究仲間に呼ばれたとかで七月の頭辺りから」
よくいないのはけっこう日常だよ?
うちの保護者はおじさんとおばさんだからね?
最近はバート兄も保護者っぽいけどさ。
月刊、うろNOW!
http://book1.adouzi.eu.org/n3868bw/
http://book1.adouzi.eu.org/n3868bw/65/
における全国誌移行ネタ使用しました




