7/18 びーちでこっそり 続き
「味覚異常について突っ込んできたのはさー、やっぱ海ねぇだったなー」
「まぁ、微妙すぎて突っ込みにくいのに流石だな。青空のねぇちゃんは」
「うん。ハバネロ系のドリンク飲まされたみたい」
おとなしく聞いてた二人が軽く身を引く。
「思い切るな。あのねぇちゃん」
「本当にね」と千秋が軽く笑う。
「そこから、なんで、サツキさんの話にいったのかが結局、よく理解できなかったんだよね」
千秋の発言に健は動きを止め、逸美は首を傾げる。
「鍋島さん? 遊んでて焼死事故起こした女の子、だよね。えーっと、鎮と仲が良かったんでしょう? なんでその子の話題になるの?」
理解できない状況を肯定する逸美の発言に千秋が苦笑する。
「なんでだろうな」
「千秋が、……アレに惚れてたからだろ」
しばしの沈黙の後、健が呟く。パチリとまばたくのは逸美。
千秋は健の腹を狙って蹴りを入れる。
「……。つまんねーコト言ってんじゃねぇよ」
「事実だろっ、あっぶねぇな。がっこやあの辺りの連中がおかしいんだよ。あの時期、がっこーに行ってなかったのはマジっぽいけどさ、あの噂や報道は変だったんだよ。逸美は疑問を感じなかったのかよ!?」
距離をとりぎみだった健は手軽く避ける。
「疑問? ぜんぜん」
さらりと答えられてがくりと肩を落とす健。千秋は小さく苦笑する。
「あの時はなんか、そう言う空気だったなぁ。ところでさ、二人とも才能ってなんだと思う?」
「興味ねぇ」
「なんだろう?」
「俺さ、続けるコトも、それにセンスを閃かせるコトができるコトも才能って感じるんだけどさ、そー言う意味では俺に料理人としての才能はないよ? ちょっと好きなだけでさ、あくまで俺のスタンスとしては技術者なんだよね。料理精神ってなんだよって感じ?」
「え? おい? 千秋、その展開はいったいなんだ?」
「海ねぇからの影響の次にあったかなと思われる影響に対する分析。ちょっと愚痴もこみ」
「うわっ。うぜ」
「ほら、一月に『うろNOW!』の取材受けたろ?」
「ああ、笑わせてもらった。ウケ狙いとしては成功じゃね? 適度に場慣れしてなくて緊張してるさまがさ」
にやにやと笑う健を睨みつけつつ言葉を選ぶ。ただ、徐々に苛立ちと言葉の速度が加速していく。
「……うん。最悪だよね。なんかさ、将来料理人目指してるって決めつけられてる感じでさ、俺、資格取得しても料理人は名乗らないし、職に困った時に使える技能としか考えてないんだよ」
「あー。知ってる知ってる」
「え? ウチで料理人就職は?」
「生活費に困ったら最終手段? 包丁も使える雑用でよろしく?」
「うわ。サイティ」
合間に軽口をたたき合う。
「まぁ、道化扱いされて、見当違いに『許せません』と言われても、なんでさ、挫折して諦めた人間に言われなきゃいけないんだ? 俺にとって料理は技術の一つに過ぎないんだぞ? あり方が人によって違うのは当たり前だって理解してるし、そこを否定する気はない。と、言いたいとこなんだけどさ、先に人を否定してきた時点で当然否定されるコトも想定内であって欲しいよね。大人なんだしさ」
いらだった仕草で軽く足場を蹴る。そのいらだちように聞くしかない二人は方を竦めつつ大人しく吐き出させることを決める。
「自分が料理という道筋と向き合う初心を裏切ったからって、それをぶつけないで欲しいよ。第一、子供だから許されるってなんだよ? 大人なら、どんな理不尽をぶつけても許されるの? 第一物事が許されるって言うのは誰かがその責を肩代わりしてくれるからだし。それってさ、親とか金銭とかだよね。あと周囲の善意。テキトーでサイテーな大人だっているわけだし、大人のアドバイス? 人の意見を聞かず、決めつけて存在拒否するのが大人のアドバイスなら、そんなものはいらない」
「溜まってた?」
「まぁね。本人、道半ばで捨ててるくせに、好きだから関わっていきたいって中途半端な未練でしがみついて、まぁそこは個人の自由だけど、人の姿勢に口を出す資格はないよなぁって思うんだよなー。まぁ、そんなみっともない状況に自分を置くのは嫌だなって思えたのは収穫だったかな。俺にとって料理はスキルの一つに過ぎないって、頭は冷やせたし。料理人って言うのはさ、芸術家だと思う。んで、やっぱり、『美味しい』と思ってほしいって気持ちで料理できなきゃダメなんだ。目で舌で耳で鼻で触覚で心で、美味しいって思える料理を作れて、それを目標にできなきゃダメじゃないかなって俺は思うんだ。だから、俺は最初から料理人なんか目指してない。なのにさぁ、俺、将来の目標決めてないって言ってんのにさぁ、なんで料理人目指し前提で否定されなきゃなんねぇの? しかも、ろくに知りもしない人に! 大人とか、子供とか以前にそれは人として、どうなのさ!?」
おずおずと問う逸美に千秋はさらっと返し呼吸を整えると続ける。一瞬、健と逸美が身を引いたのを見ないフリだ。
「編集部に文句つけりゃよかったろー」
「冗談! そんなかっこ悪いみっともないマネできるわけないだろ」
健の提案はざっくりぶった切られる。
「でも、割り切り難いよねぇ。いるよね。自覚なく酷い人」
「ま、ゴシップ記者としては成功するんじゃね? 人を怒らせるコトができんなら取材もしやすいだろ。敵も増やしてそうだけどな」
「ねぇ、千秋」
「なに?」
「一番気にしてるのは否定されたこと? 料理に対する姿勢? ロクに知らない相手に侮られて馬鹿にされたと感じたこと?」
「……ぜんぶ」
逸美に問われしぶしぶな感じで答える千秋。
少しだけ呆れたように息を吐く二人は顔を見合わせて苦笑する。
「挫折して、初心を捨てたのに関わってるからいいなんて妥協を自分に許すくせに人のあり方を許せないという傲慢さがイヤだ」
「ま、世の中、何かと理不尽なもんだって。きっと記者のねーちゃんもいやな人生送ってきてんじゃね?」
「反面教師、そうはなりたくないって確認できたんだから、得るものはあったよね? 千秋が、ちゃんと自分で自分の方向さえ見間違わなきゃ誰かのこと、なんて気にしなくていいと思うよ?」
「逸美がちゃんと年上っぽいことを言ってる」
茶化されて苦笑しつつも逸美はそっと続ける。
「一応、一年先に生まれてるし。嫌な思いをしたくなければ閉じこもるしかないんだよ?」
心を落ち着けるように息を大きく吐いて、千秋は答える。
「ちゃんとさ、挫折して方向性が変わっていくことだって間違ってるなんて思わない。それでも押し付けるのってよくないよなー」
「……鎮には?」
「鎮は別」
「別にしてんじゃねぇ!」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
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青空海さん
『人間どもに不幸を!』
http://book1.adouzi.eu.org/n7950bq/
鍋島サツキ嬢
『月刊、うろNOW!』
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澤鐘日花里さん
それぞれ話題としてお借りしました。




