7/5 夏祭りの夜 【口止め】
扉に触れる直前、少女の体が揺らぐ。
止血もせず、時折伸ばされる手を振り払い、階段を昇る。
止まるコトのなかった血が服に染み、通った後に痕跡を残す。
扉を開けたのは赤毛の兄。
そのまま少女を抱き上げる。
「エルザ、呼んで」
かすれるような声で拒絶しようとする少女の意思を無視して、ミツルに言いつけるといくべき場所へと向かう。
見送ったミツルは携帯に軽く操作しながら残された少女たちに視線を這わせる。
「色気ある格好だけどよぉ、シャワー浴びてきたら?」
濡れて着崩れた浴衣を纏う二人はお互いに顔を見合わせ、にやつくミツルを不快げに睨む。
シャワーを浴びて、適当に用意された服に着替えた頃にミツルが不思議な場所に案内してくれる。
入り組んだ道筋。扉と廊下、階段の組合せ。
辿り着いた部屋は暗い茶系でまとめられている。
開かれた戸棚にはモニター。少量毎の小さな小瓶。
デスクの上に散らばる治療用キットのカラーが違和感を醸し出す。
「お姫様は? しずめちゃん」
「うるさい」
返すのは白い布を敷かれた椅子に身を沈めるセリカ。
「エルザきたら、もう少し必要な治療薬わかるから、動かないで」
セリカは兄をスルーして着替えてきた年上の少女に向かう。
「空ねぇ、苦しいとこや痛いとこない? ……。ごめんなさい。空ねぇに怖い思いさせるコトになるって思わなかったの。うまくいくんだって思っちゃったの。ごめんなさい」
対応に困る少女に謝意を示し、少し、沈んだふうな兄に一瞬だけ視線を送ってから、愛菜に視線を向ける。
「まーな、いーい。なぁんにもなかったんだからね。転んだ場所にいけないものがあっただけなんだからね」
「え。でも……」
「イイわね? たいしたことはなかったの。ちょっとかすり傷だわ。過剰反応されると困るの」
言い放ち息を吐く。
「過剰反応は困るのよ」
そのまなざしは釘を刺すように兄を見ている。
「過剰じゃない。残るような傷が出来かねなかった。血が流れすぎれば危ない」
「私が不用意に動いたからね。じゃあ、私の責任。ミツルがそういう指示を受けてたことを知らず、その指示の解消もできず、しずめに空ねぇを傷つけるような行動に出させた状況は私が作ってしまったの。傷くらいどうだっていいわ。だって、ミツル」
「ぅん? なんだい? お姫様」
「私が私を守ることに集中した仕事を果たせって言っていたら?」
「もちろん、従ったよ? 個人が受けた指示であり、他の人員に同様の指示がいっていないという保障はしてやれないけれど、俺はうごかねぇよ?」
ミツルがセリカの発言を肯定すればほら御覧なさいとばかりに手を揺らす。
「つまりはそういうこと。鎮兄は鎮兄の一番を大事にすればいいの。本当なら千秋兄にも引き取り手が見つかったと思ってたのに。めんどくさいの」
セリカは突き放すような態度で続ける。
「せり」
「まぁ、空ねぇに捨てられるんなら引き取ってあげるけど、……ないでしょ。すぐじゃなくていいんだから。ゆっくりでいいんだよ。ねぇ、空ねぇ? 巻き込んでしまってごめんなさい。私で修正できるとこは修正するからね?」
一呼吸置いて。
「ミツルも空ねぇたちに何かしちゃ駄目なんだからね!」
「普通はしねぇよ。怖すぎるっつーの!」
ミツルに釘を刺したセリカは即答され首をかしげる。
「なんで?」
「内緒。お姫様は少し寝ればいいと思うよ」
軽い仕草で吹きかけられるミスト。
「なっ」
近寄りかけた鎮を軽く制す。
「はい。予定確認です。しずめちゃんは恋人ちゃんとお話し合い。愛菜は送っていく。エルザが帰ってきたら一緒であろう千秋と、バートには軽くごまかしておく。お姫様は大人しく眠り姫。とりあえず、恋人ちゃんはこちら側にようこそ?」
そのまま部屋から追い出す行動を取るミツル。
「俺もエルザも恋人ちゃんを今後はどうこうしようとはしねぇよ? お姫様の指示だしな。ちなみにー下の声って上によく聞こえんだよねー」
人を追い出して後ろ手にドアを閉める。
「覚えておくといいよ? 俺が今受けた指示の優先順位をね。まぁ、選ぶ未来によっては考える必要もないけどねー。ほら、愛菜もうじき千秋たち帰ってくるから行こうか」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
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より青空空ちゃん




