7/5 夏祭りの夜 【半月の海】Ⅲ
「そら」
「行こう? 芹香ちゃんが心配だよ」
空の手が迷いなく俺の手をとる。
「……こわくない、のか?」
ぎゅっと力がこもる。
「心配だよね。早く止血だけでもしてあげなきゃ」
あれ?
何か違う?
何がってわからないけど。
空は砂に散った血痕を見てる。
セリの拒絶が強くて手をだしあぐねてるミツル。表情は苦笑。
空に引かれるまま歩く。
そこにいるのが嬉しい。
離れないのが嬉しい。
空が触れてくれる。
「……また、傷つけるかもしれない……」
空の手に力がこもる。生温い感触。
「心配だよね。痛そうだったもん」
その眼差しは先を行くセリ。
浜や階段には、ぱたりぱたりと血痕が残る。見上げれば、時折伸ばされるミツルの手を邪険に払い、あくまで自力で行く。その時に出血が増えるようで痕跡が強く残る。あとでしっかり洗い流さないとな。
「鎮くん?」
立ち止まった俺を振り返り、「行こう」とうながす空。
こぼれる血
やくそく
「……だったのに。セシリアママとの」
守らなきゃいけないのに。
「やくそく?」
悩むような声でつぶやかれる空の言葉で、音にしていたんだなと知る。
「守らなきゃいけないのに」
「じゃあ、早くそばにいってあげなきゃ! 大丈夫。……そばにいるの。だからそばにいてあげて。……芹香ちゃんがこれ以上傷つかないように……ね?」
なんでだろう?
納得できるのに納得できない。
面白くない。
「空。」
だって、寄るなって言われたんだ。セリに俺はいらないんだ。千秋もセリも母さんも。当たり前かなぁって思う。同じ場所にいけない。
伯父さんや波織ちゃんが言うように「お兄ちゃん」にもなりきれない。
綺麗な空に俺なんかが触っちゃいけない。
「……ごめん」
欲しがっちゃダメなんだ。
欲しがって、俺のって思ったから……。
ぎゅうっと抱きしめられて頬に指を感じる。
「あとで、ね。芹香ちゃんを迎えにいってあげなきゃ、一人じゃないのに独りだって思わせちゃダメ。鎮くんも千秋君も私たちだっているんだから。ねぇ、鎮くん」
真っ直ぐに覗き込んでくる黒い瞳を見下ろす。
「……っ、は、離さないで……ね」
ふわり感じる唇の感触は幻のように。
くいっと手を引かれる。
「早く追いついてあげよ」
嬉しくて不愉快。
わけがわからない。
「そらはいつ俺がいらなくなる?」
自分で何を言ってるのかがよく、わからない。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
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青空空ちゃんお借りしております~




