7/5　夏祭りデート　【花火と川辺】

　浴衣で手持ち花火。

　赤や緑の火花が噴き出す。何処かで「人に向けるのではないぞ」と注意の声が聞こえる。

　少し照明の落とされた夜の闇の中に小さな火花。

　浴衣な空と花火。少し距離を作ってシャッター。

　ちょうど、

「鎮くん」

　と俺の方に笑顔を向ける空。あ。レンズ越し。今回は夜景モードで撮った。確かサイトの説明では花火とかも撮れるはず。

　フィルター越しに空が少し拗ねた気がして、もう一枚。

　シャッター音はない。

「ビーチでもさ、今度花火しよーよ。花火見てる空も撮りたいし、さ。たくさん」

　少し声を落とす。

　データは空がメイン。あとはわたあめりんご飴かき氷。ちょうどひと気のなかった舞台。夏祭りののぼり。誰かが落とした使用済み割り箸。(後で拾って捨てた)終わった花火が突っ込まれてるバケツ。

　夏祭りのカケラ達。

「いろんな種類の花火がイイな。ちゃんと上手く撮れるようになりたいし。何よりも空を撮ってたいな。でも直見の方がもちろん好きだ」

　胸を張って言えば、ちらりと視線が外される。恥ずかしげな姿が愛しくてたまらない。

「今年も夏休みはこっちで過ごすんだー。花火するんならたまには混ぜてよね。ちゃんと物資提供はするからさ」

　公志郎君が笑う。ねっと同意を求める笑顔を柊子さんに向ける。

　静かに頷く柊子さん。

　俺は空を見て笑う。

「花火会やろーな」

「うん」

　約束を、取り付けて嬉しくなる。

　先に帰ると言う芹香を見送る。

　愛菜が軽く頭を下げて。

　公志郎と柊子さんもさなえさんが迎えに来たからもう帰ったし。ついでに天音ちゃんも。

　母さんは家にいるはずだけど、保護者的活動は期待できないし、あんまり間をおかずに帰った方がいいんだろうな。

　千鶴ちゃんはお母さんトコに今日は帰るって言ってたし、ミラは飛鳥ちゃんとこ泊りに行く碧ちゃんを飛鳥ちゃん共々送って行く千秋にひっついていくって言ってたし。にやにや笑って「お邪魔しないのー」ってちょっとはずいって。

　どこで覚えた？　誰の影響だよってちょっと思う。

　ゆっくりと二人で歩いて帰るいつもの川沿い。

　青空の他の姉妹はどのタイミングで帰ってるんだろうとちょっと思う。汐ちゃんがわたあめのとこに居たり、渚ちゃんが涼維と喋ったりしてるのは見かけたけどね。

　そー言えば雪姫ちゃんも見かけたなぁ。隆維がはしゃいでデートの邪魔をしてたっけ。きっとあれデートだろ。

　そんなお見かけネタを道すがらのだべりネタにしながら二人で歩く。

「重ちゃんは、ちょっとダメなんだー」

　空のトコに戻りにくかったあの瞬間のことを謝る。

　デートなのにあんま離れてるのって良くない、よな？

「嫌いなわけじゃなくてダメなんだよ。なっさけないよなー」

　あー。ほかの女の子の話題もNGって確か……。うーん。

　ぽふっと手の感触。少し背伸びした空の手が俺の髪に触れてる。

「少し、怖いんだよね」

　少しだけ寄り道。所々にある川べりのベンチ。そこそこにカップルがいるから空いてる場所にそっと潜り込む。

　ちょっと気恥ずかしい。

　空を見れば暗いからわかりにくいけど、少しだけ赤い。

　妙にホッとする。

「空が好きだよ」

　こくりと頷く空が好き。キスを落とす。

　キスを落として抱きしめる。

　ここまでは平気。

　でも……

「全部の種類の好きで、一番空が好き。でも、きっと、女性として意識した時にコワいと思うかもしれないのが怖い」

　傷つけるのが怖い。求めるのが、求められるのが怖い。望むことが、望まれるのが怖い。結局俺が傷つくのが怖いんだ。

　あれ？

　このセリフも空を傷つける？

　恋人に、向ける言葉じゃない、よな？

　あれ？

　まずった？

　一番好きなのは空。愛してるって心を向けれる。言葉にできる。

　ふわりと頭を抱きしめられる。

　驚いて、どこかわからない場所が痛くて。

　空に抱きしめてもらう状況に身を任す。

「ごめん、ひでぇこと言った？」

　なんとか言葉を搾り出す。

　頭を振ったんだろう。振動が伝わる。

　それでも、好きの種類がよくわからない俺なりに、一番好きなんだ。

　もっと空をわかりたい。傷つけるような言葉を避けられるように。

「ちゃんと、空のそばにいたいんだ」

　でも、俺はこう、だから。

　そばにいていいのかがわからなくなる。

　俺はどこまでも身勝手だから、空が傷つかずに済む道が見つけられないんだ。

　俺のでいてくれるというその言葉に甘えてる。

「そら、愛してる」

　緩んだ抱擁からそっと手を伸ばして空の頬を撫でる。

　熱を帯びた肌はすべらかで指に馴染む。

　潜めた声は動悸を隠せない気分。

　着信音と振動を感じる。

　芹香が家に着いたのかな？