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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014夏
553/823

7/5 夜回 芹香と愛菜

 


 私が芹香ちゃんを送って帰ることになった。そんなに離れてるわけじゃない場所にミツルさんたちがいるはずだから怖くはなかった。

「花火楽しかった〜。町長さんのマジックショーもカッコよかったし〜」

 芹香ちゃんが空を見上げて笑う。

 千秋さんは飛鳥さんを送っていって鎮さんは空さんとゆっくりだ。

「芹香ちゃん、心配?」

「んー? たぶん大丈夫でしょー。ちぃ兄んとこ、一応おっきい病院らしいし危篤って言われたわけじゃないし、向こうの家族が会いたいって言ったんならもしかしたらこのまま二学期まで帰ってこないのかもなー。みあちゃん、のあちゃんもだから少し寂しいけど〜。ミラちゃんは残るらしいし〜」

 芹香ちゃんは落ち着いていた。

 いとこの家族の体調不良ぐらい平気なのかもしれない。

「愛菜はねー。どんな大人になりたいのー?」

 やっぱり、

「え? ママや花ちゃんのお手伝いが、後を追える人、かなぁ」

「それじゃなくて、愛菜自身のなりたいかたちだよー」

 くらっとしたムリだって言われてるみたいで。

『ダメだよ』

 そう告げた鎮さんの言葉が耳鳴りのように響く。


 カッとなる。

 ふわりと無防備な笑顔がイヤだった。

 空には半分の月。


 無防備で抵抗する力は無に近い。


 どうしてこんな子が大切にされるの?

 機転はまわる方かも知れない。

 愛情を貰うのが当たり前で、認められるのが当然で、きっとあんな拒絶を受けたりしないんだ。

 綺麗な白金の髪、明るい場所では黄色くも見える黄緑の瞳。

 責めるでもない瞳は水越しに見えても動じてなどいない。

 濡れた手が腕に触れる。

 生温くも冷たくも感じられない水の温度。

 力が抜ける。

 わかってるこんなことをして何にもならないことぐらい。




 でも、いやだった。





 コワかった。

 否定されたくなかった。

 欲しかったことを拒絶されたくなかった。
























 ――――むせこむ音は聞こえない。























 だって何がだめなのかがわからなかった。

 花ちゃんやママが何をもって『ダメ』だといったのか教えてくれなかった。












「ばかねぇ。なんだってできるんだよ」


 差し出される手。

 その手は私の手より小さい。

「出来ないこと。なんて、本当はないの」

 手を取れない私の手をぎゅっと握る。

「自分のために生きれなくちゃ人のためになんか生きれないわ。生きている者だけが未来を切り拓くの。生きている限り、それは許され認められているの。本当にね、それを許せないのは自分自身だけなの」

「私は花ちゃんやママの」

 役に立てない?

「言っとくけど、私は特に誰の役にも立っていない自信があるわよ」

 黄緑の瞳がじっと私を見ている。

「役に立たなくても、手を差し伸べれなくても、私は結局私でしかないわ。でも、私を守る。守りたいなんてふざけた理由で誰かが、しかも私が大好きな誰かが傷ついて、不幸を愚行を甘受するっていうのならそれは許せない。それこそ馬鹿らしいことだわ!」

 同意を求める眼差しで手を軽く動かされる。

 彼女の気性に圧倒される。

「人は弱くても強くても助け合って生きていけるはずなの。だから言葉があるの。分かり合えるために。でもね、生き方はたくさんで合わないこともあるよね? でも、それって悪いことじゃないでしょ?」

「だって信念を持ってその道を行く人はかっこいいわ。たとえね、進む未来、辿る道が違ってもね、ひとつの空の下に生きてるんだよ」

「違う道のことなんか興味ないわ」

「違う道はひとつの道だわ。愛菜、愛菜は愛菜の道を歩くしかないの。交わることはあっても別の道だわ」

「花と愛菜は別の道を行くの。ううん。別の道を歩いているの」

 一つ息を吐き私の顔に触れる。そのまなざしは泣けてきそうなほどに優しい。

「あのね。バカなことも愚かなことも悪いことじゃないわ。みんな、迷って進むの。進むしかないの。目をそらしたっていい。耳を塞いだっていい。愛菜は愛菜だわ」

 抱きしめられる。

「だって、愛菜は芹香のお友達でしょ? 喧嘩をしても愛菜のことを知っていく一歩だよね?」




 その手は冷たくて暖かい。


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