夏祭りが近い(中学生)
「顔色悪いけど、大丈夫?」
山辺さんのその声に意識をそちらに向ける。
ここは教室だ。少し浮かれた休み時間。
「平気。ちょっと、暑さにばてぎみなだけ」
「まだ、夏本番には遠いけど?」
まだ暑くなると暗に言われてどっと疲労感がくる。
「夏祭りこれるか?」
「夕方に少しだけ見に行くつもりなの」
長船君が聞くから答えておく。うろなの町のお祭りは七月五日の土曜日。浴衣の準備をしましょうねと「お母さん」が嬉しそう。ユカタってお風呂上がりのバスローブみたいなものじゃないのって聞いたら可愛いの選ばないとねぇってなお楽しそうだった。
「俺たちは朝からいるぞ!」
「お前らは設営の邪魔すんな」
「邪魔してねーよ。ちゃんと遠巻きに見守ってるだけだって!」
「途中で体調崩しそうな時はどーすんだよ。せめて現地入りは九時半にしとけよ」
「えー」
ダメだしされて不満そうな日生下双子。いったいいつからたむろする気だ。
「えー。じゃないって」
「だって今年の夏祭りはこの日しかないんだぞ〜。同じことが繰り返されたりしないんだぞ〜。楽しみにして何が悪い〜」
長船君があしらって、それに不満そうに言い返してる。
すでに私は蚊帳の外。
「何時ものパターンね」
「山辺さん。片割れくん来るかな?」
「来ると思うよ」
クラスの女子が机のまわりできゃいきゃいと尋ねてくる。普段はあんまり山辺さんと会話してるようには見えないのにと思う。
「あのね、山辺さんの片割れくん彼女いるんだけどね、愛想良くて面白いの」
「天音ちゃんのことや妹ちゃんのことが大好きって感じで」
「悪戯っ子でいいよね」
ふぅーん。
「あ。ノワールな人じゃないからね!」
「母さんはもういないけど、その分、兄妹仲はいいってとこ」
……花ちゃんに会えない。
家族に会えない。パパは新しい奥さんと家族だから私じゃない。
ママもいない。ママと花ちゃんを追うこともできないんだ。
二人が目指した道をたどることもできないんだ。なんでダメなの?
チャイムでみんなバタバタと席に着く。
体験学習をどこでするかの話し合いを聞きながら、考えているのはまるきり別のことだった。
不満が回る。
どうしようもなく迷う。
道の標は繋がってない。
「美丘さんは職業体験どこにいくー?」
黒板には、候補なんだろう商店街の店舗やスーパー、工場とかいろんな業種が連ねられる。
でも、普通の業種なんて興味もったことないからわかんない。




